第一回 てきすとぽい杯
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キャラメル味
(ウツミ)
投稿時刻 : 2013.01.19 23:32 最終更新 : 2013.01.19 23:47
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- 2013/01/19 23:47:07
- 2013/01/19 23:40:12
- 2013/01/19 23:38:55
- 2013/01/19 23:32:59
キャラメル味
ウツミ


 ……夢を見ていた。
 家族と三人、クリスマスの夜景の中を歩いている夢。
「ねえ、お母さん! あれ買おうよ!」
 繋いだ手の温もりを引き寄せるように引っ張り、もう片方の手で行く手の屋台を指差す。
 母は何も言わず、ただ優しい笑みを浮かべて、ぎゅっ、と手を握り返してきた。
 そんな、何でもない事が嬉しくて、わたしの足取りは弾むように歩を刻む。
 街はキラキラと輝き、わたしたちはまるで満天の星空の中を進むようだった。
「サンタさんには何をお願いしようかなぁ……」
 そう呟くと、父が複雑そうな表情を浮かべてわたしの髪をくしゃくしゃと掻きまわした。
「もう、やめてよぉ」
 そう言いながらも、クスクスとわたしは笑っていた。
「ほらお父さん、お母さんに置いて行かれちゃうよ?」
 少し先からこちらを見ている母を指差し、わたしは父の手を引っ張る。
 しかし、ガクン、という振動と共にわたしの身体は止まる。
「……お父さん?」
 父はしっかりとわたしの手を握り、動こうとしなかった。
「どうしたの? お母さん行っちゃうよ?」
 そう言うと、父は軽く首を振った。
 その意味は分からなかったが、わたしはなんとなく不安を覚えて振り返った。
 その道のずっと先で、母が微かな笑みを浮かべて歩み去るところだった。
「お父さん、わたし、お母さんの所に行きたいの! ねぇ、離して!」
 父の手を振り解こうともがくが、びくともしない。
 その先では、母の姿が見えなくなろうとしていた。
「行かないで! お母さん、お母さんっ……!!」
 掴まれていない方の手を伸ばし、必死に母の方へと向かおうとするが、身体はちっとも前に進まない。
 それでも、前へと進もうとして――

 ゴンッ!
「……痛っ!!」
 突然の衝撃で目が覚めた。
 視界に映るのは天井と、ベッドからずり落ちた毛布、そして同じくベッドからずり落ちた私の身体。
 それらがぼやけて見えるのは……なにも、床に頭を打ち付けたからだけではないだろう。
 ベッド横に置かれたデジタル時計をチェックする。
『1月1日 6:24』
「はぁ……」
 溜め息を一つ吐く。
「今年の初夢は、こんなのかぁ……」
 にじみ出る思いを噛み殺して笑みを浮かべる。
 覚えている。
 あれは、今からもう随分前の出来事だ。
 家族全員で笑い合えた、最後のクリスマス。
 病気がちだった母は、あの日を境に容体が急変した。
 あるいは、幼かった私が外出しようなんて言いださなければそんな事にはならなかったのかもしれない。
 あの日の寒さが母の体に悪影響を与えたというのは否定できないだろう。
 ――でも、それでも。
 いつかは別れの時が来るというのなら。
 私はあの日家族で出掛けたことを、後悔せずに胸の内にしまっておこう。
 あの日買って食べたポップコーンの味を忘れないように。
 後悔の日としてではなく、幸せの一ページとして心に刻もう。
 あの日母に買ってもらったキャラメル味のポップコーンは、苦かったのではなく、甘かったのだと。
「そういえば、結局あの時のお願い事は何だったっけね?」
 もちろん、覚えている。
 思い出して、クスリと笑う。
 ――わたしたちの思い出に、いっぱいの幸せを。
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