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「それで、人類はそいつの自殺に付き合わされて、滅びる破目に……なる予定だったわけだ」
私の目の前で、男は笑った。
「そう。でも、それこそが解決方法だったのだな」
10年の付き合いがある、人間として考えれば、十分親友と呼べる月日をともに過ごした男に、私は答えた。
「まさか、リボン結びにしてある間は、増殖しないとはな」
「人類はすぐさま、宇宙船を止め、草を全てリボン結びにした後、残らず燃やし尽くした。結ばれた状態で萌えた草は、増殖能力を失っていたため、これにて絶滅が完了した」
「……まぁ、これはその残滓ってところだがな」
男はディスプレイに写ったニュース記事を指差した。
草の殲滅作業にかかわった、マルコという名の研究員が、こっそり草を持ち逃げしようとして、逮捕され、国家反逆罪で処刑されたというニュースだ。
「あれは対処法を知らなければ、手のうちようがないし、人手に負えない量までこっそり増やされれば、対処法を知っていてもどうにもならない。見つからないところに隠した「草」を解くぞ、と脅しをかけることも出来る。地球を人質に取る兵器として使えるってわけだ」
気の毒に、と思いながら、我々は地球から去った。
人間への擬態を解きながら、私は悲しい気持ちを味わっていた。
人間の女性に擬態した同胞を使って、かつて地球に我々の植物を送り込んだプロジェクトは失敗に終わったのだ。
地球上の誰もが知っていた。
トウモロコシとイモを中心とした栽培技術が極端に発達し、栄養素が多く取れるようになった現代でも、未だに無から食物が取れるわけではなく、食糧問題が解決していない地域が、まだ多くあることは。
だが、地球上の誰も知らなかった。
マルコと呼ばれた研究員は、過去の植物や文化にも詳しかったことを。
あの草は、小麦と呼ばれるもので、今は珍しくなった食文化の根幹を支えていた、栄養豊かな穀物だったことも。
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