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第15回 てきすとぽい杯
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わたしの生きる道
 投稿時刻 : 2014.03.08 23:24
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わたしの生きる道
小伏史央


 わたしは桜風吹のなかを駆けていた。桜色の空、桜色の地面。そこは華やかで息苦しい、春の息吹だ。桜が二列になて平行に並んでいる。その間をわたしは駆けているのだ。え? なぜ駆けているのかて? そりあわたしは、遅刻寸前なのだから。
 走れ、走れ! 腰を低くして足を押し出すようにして、わたしは走る。頭のなかは桜の色のように滲んだピンクに染まていて、それは、かんかんと鳴り響いている警鐘だた。
 桜の花びらが舞い上がる。視界が桜色で飽和される。それでも両脇の桜の木は、裸になる気配は一向になかた。無尽蔵の色がなだれ込むなかで、走る、走る。
 どこへ向かて走ているのだろう。いやそれは学校に決まている。わたしは今日、入学式なのだ。高校生活、一日目。着たての制服を体になじませながら、走る。走る。

 わたしは桜色の宇宙を走ていた。その宇宙にとてのダークマターが、桜色なのだ。おかしいけれど、わたしにとてのおかしさの基準は、わたしの宇宙にあるのだから、この桜色の世界のなかでおかしいということはおかしかた。
 わたしは走る。宇宙を宇宙たらしめている法則が、まるであべこべだた。いや、あべこべだと感じるのは、わたしの元いた宇宙と比べてのことなのだから、この宇宙にとては、当然のことであるに違いない。その宇宙にはタキオンが実在した。だからわたしは、容易に光よりも速く走ることができた。わたしは走る。走る。
 走てゆくと、巨大で矮小な惑星が、内側と外側をくりかえし入れ替えているのが見えてきた。それはきと、わたしの宇宙でいうところの自転であるに違いない。地表は次の瞬間には地底になり、地底が一瞬後には地表になり、そしてまた地底になり。その運動自体がコアのような作用をもたらしている。その惑星には生命体がいた。その生き物は、地表にいる間は昼間を享受し、地底にいる間に眠りに入る。規則正しい生活を続けていた。わたしもこうやて規則正しく生活していれば、寝坊なんてしなくて済んだのかもしれない。わたしは走る。
 どこへ向かて走ているんだけ。

 次にわたしが走ていたのは、桜吹雪のなかだた。並木道になていて、その木々はどれも桜の木だ。わたしの入学を祝福するかのように、わたしの視界を桜色でいぱいにする。それは嬉しくはあたがうとうしくもあた。視界が桜色であることは、わたしの宇宙にとてそれはそれは当然のことであり、その当然であることをわざわざ大量に押し付けられても、反応に困るというものだ。
 なんの話だけ? そうだわたしは遅刻しそうなのだた。どこに? どこだけ。わたしはがむしらに走る。走ているとなんだか救われたような気がした。たぶん気のせいだと思う。

 なるはやでお願い。そう言われたからわたしは超特急で走た。誰に言われたのだけ。わたしは走た。光よりも速く。ときに光よりも遅く。その宇宙は桜色にあふれていた。それは新しい季節の息吹だ。え、そうだけ。わたしは桜並木のなかを走ている。なんの話だけ。わたしはいま走ている。宇宙を走ていると桜並木を走ているとマトリシカのようなものが視界に突然現れてわたしは驚いた。わたしは走ていると宇宙のなかに内包されている桜色の宇宙に入り込んでいた。そしてまた、桜色の宇宙を走ているとそのなかに内包されている桜並木のある宇宙に入り込んでいた。そしてまた、そこを走ていると桜色の宇宙が現れるのだ。マトリシカは内側と外側を絶えず入れ替えて自転していた。わたしは走る。
 どこへ向かているのだけ。
 なるはや人生の落としどころはつけといたほうが楽よ。お母さんが言ていた。わたしは走る。この先へ進まないコースを。高校生活一日目からもうずと抜け出さなくていいの。わたしは走る。なるはやなるはや。どういう意味だけ?
 コースアウトなんてしない。
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