【BNSK】月末品評会 inてきすとぽい
 1  3  4 «〔 作品5 〕» 6 
時計屋との約束
投稿時刻 : 2014.03.31 01:32 最終更新 : 2014.03.31 01:33
字数 : 858
5
投票しない
更新履歴
- 2014/03/31 01:33:32
- 2014/03/31 01:32:55
時計屋との約束
伝説の企画屋しゃん


 まず最初に、マーガリンがあた。
 パケージの側面には、原材料として食用植物油脂、食用精製加工油脂などが記されている。
 食用植物油脂と食用精製加工油脂のちがいは何なのだろう、などと考えながら、慎重かつ丁寧に僕はマーガリンを冷蔵庫にしまた。
 日曜だというのに気分が落ち着かないのは、大事な商談が明日に控えていたからだ。
 大事といても、会社からすればたいした儲けになるわけではない。
 ただ僕自身にとては、契約にこぎつけるはじめての案件になりそうだた。

 入社して、はや三月以上。
 親類縁者はもちろん、片端から名刺を配て歩けとの社命を受け、僕はほうぼうで顔を売ていた。
 まずは名前を覚えさせることだ、と上司は言う。
 お宅の営業がしつこすぎる、とクレームが来るくらいでようやく半人前なのだ、とさらにえらい上司が言う。
 けれども、そんなの非効率的だし、スマートじない。
 時代遅れのアドバイスのような気さえする。
 新米だけれど、僕には僕のやり方がある。
 ようは契約に結びつければいいのだ。
 人間の性格がさまざまなら、結果を導き出す方法も一つだけではないはずだ。

 そのようなわけで、僕はついさきほどスーパーへ行き、一番高いマーガリンを買てきた。
 数日前、飲み屋で知り合た客と意気投合し、ある話を持ち掛けられたのだ。
「ほお、兄さん。保険の営業か。そり大変そうな仕事だね。ところで、俺は時計の販売をしていてね。ここはどうだろう。バター取引といかないか? つまりは、互いに相応のものを交換するわけさ。兄さんも客商売なら、身なりが大切だろう。俺がいいのを見つくろてやるからさ」
 バターに相応するものと言えば、マーガリンしかない。
 僕はビールジキをあけながら、思わせぶりな客の言葉に肯いた。
 冷蔵庫の中には、僕の輝かしい未来がある。
 今はスマホが時計代わりだが、パネライやユンハンスをひけらかす日も近い。

 そうそう、一つ重要なことを忘れていた。
 客に渡すのだから、ラピングは欠かせないだろう。
 僕は壁にかかた時計を見た。
 今なら、100均も開いているはずだ。
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない