てきすとぽい
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第16回 てきすとぽい杯
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爆睡都市
(
工藤伸一@ワサラー団
)
投稿時刻 : 2014.04.05 23:35
最終更新 : 2014.04.10 02:57
字数 : 2785
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2014/04/10 02:57:40
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2014/04/10 02:18:07
-
2014/04/05 23:35:40
爆睡都市
工藤伸一@ワサラー団
目が覚めたら電車の中だ
っ
た。既に停車している。しこたま呑んで爆睡していたのだ。しばらく座
っ
たまま呆けていると、発車する気配がない。どうやら終電のようだ。でも何か変な感じがする。空気が違うというか。まあ酔
っ
払いだし、おそらく変なのは自分の感覚の方だろう。
意識が回復してきたところで車内を見まわしてみると、まだ大勢の乗客が残
っ
ている。事故で停ま
っ
ているのかもしれない。隣の人に訊こうとしたら、眠りこけている。反対側の人も同じだ。とりあえず席を立ち車外にでようとしたら、何かにつまづいて転んでしま
っ
た。
何が落ちていたのか確認してみると、床の上には座れなか
っ
た人たちが倒れ込んで眠
っ
ている。これは尋常じ
ゃ
ない。踏まないように気を付けながら運転室に向かう。運転手も眠
っ
ている。何てことだ。しかし事故らなか
っ
たのは停車後に眠りだしたせいだろうか。
※
「運転手さん、終点ですよ」と全身を揺り動かしてみたら、彼は何とか目を覚ました。あくびをしながら「おはようございます」と返してきたので、まだ寝ぼけているようだ。「呑気なことを言
っ
てる場合じ
ゃ
ない。ここ運転席ですよ」「本当だ。でも電車が止ま
っ
ていて良か
っ
た。そういや終点だ」「電車を止めてから眠
っ
たんですか?」「さあね?」「とにかく他の乗客を起こして下さい」「言われなくてもやります」「眠
っ
てたくせに偉そうな」
※
「お客さん、終点ですよ」「僕に言
っ
てどうするんですか」「失敬。これも仕事ですから」そう言いながらまた眠
っ
てしま
っ
た。再び起こそうと思
っ
たが、態度も悪く役に立ちそうにないから、他を当たることにしよう。
車外に出てみると、更に異様な光景が広が
っ
ていた。ホー
ムには大勢の人々が突
っ
伏して眠
っ
ている。鉄道員たちも例外ではない。駅に何かが起きている。これは非常事態だ。睡眠ガスによるテロの類だろうか。このままでは僕もまた眠
っ
てしまいそうだ。
焦りを感じつつ改札を出ると、外も同じだ
っ
た。駅前の交番に立ち寄
っ
てみたが、出動中で誰もいない。電車の出入り口は停車時に開いていたからホー
ムなど外も全滅だ
っ
たが、自動車ならガスの被害を免れた可能性がある。そう考え車道に目をやると、所々から炎が立ち昇
っ
ている。
クルマが事故りまく
っ
ているのだ。並んでいるタクシー
を窓越しに覗いてみると運転手も眠
っ
ている。窓を閉めていても駄目だ
っ
たらしい。居眠り運転のクルマが一斉に衝突したのだろう。
※
街全体がテロにあ
っ
たのだとすれば、一般人の力ではどうしようもない。110番にかけるしかないと考え、ポケ
ッ
トにしま
っ
たはずのケー
タイを探したが見つからない。泥酔していたから落としたのか、それとも寝ているうちにスリにあ
っ
たのか。困り果てていると事故車の群れの中にパトカー
を見つけた。
窓を叩いてみたが反応がない。近くにあ
っ
たポー
ルを引き抜いて窓ガラスを割り、そこから手を入れて鍵を開けた。そして直に起こそうとしたが、警官の寝息がない。寝ているのではなく死んでいるのだ。まあ交通事故だから仕方ないよな。
そんなこと言
っ
てる場合じ
ゃ
ない。僕が目を覚ましたのなら、他にも起こせる者がいるかもしれない。そこで誰彼かまわず試してみたが、上手くいかない。そうこうしているうちにまた睡魔が襲
っ
てきた。
※
「お客さん、終点ですよ」そう声をかけられて目を覚ました。ぼんやりしたまま記憶を辿り「酷い夢を視たものだ」と安堵するも、その安息は悪夢と何ら変わらぬ光景によ
っ
て即座に打ち消された。街中で覚醒している者は他に誰一人なく、居眠り運転に起因する交通事故の多発で車道は焦土と化している。
のみならず多くの建物が燃えているのは、火器の不始末によるものだろう。深夜とはいえ、都心から長距離帰宅してきた住人の就寝時刻には、まだ早い。彼らを相手にする飲食店の厨房が火元となり、それが燃え移
っ
たのだろう。まるで大空襲を受けた後のようだ。もはや何をすればいいのかすら分からない。それにしてもどうして自分だけ起きているのか。ようやく不可解な点に気づいた。
※
「お客さん、終点ですよ」と言
っ
たのは誰か。そもそも電車の中で一人だけ目覚めた時にも、それと同じ言葉を聞いた気がする。しかし運転手は運転室で眠
っ
ていたし、自分が座
っ
ていたのは座席の真ん中だ
っ
たから、ホー
ムにいた鉄道員とも考えにくい。とにかく今は声の持ち主を探すしかない。とはいえ何の手がかりもない状況では動きようがない。方法を考えあぐねている内、再び眠りに落ちてい
っ
た。
※
「お客さん、終点ですよ」そう声をかけられて目を覚ました。いつの間にか電車の中にいる。しかも普段と何の変わりもない普通の車内だ。長い夢を視ていただけだ
っ
たんだな。泥酔していたせいだろう。仕事が絶不調なもんで、ストレスが溜ま
っ
ていて。クビを免れるためにも、せめて明日も早く出社しないといけないのに。
※
「お客さん、終点ですよ」そう声をかけられて目を覚ました。すると今度は焦土の中だ。夢を現実と混同していただけだ
っ
た。でも本当にそうなのだろうか。頬をつね
っ
て確認してみると、全く痛くない。古典的な手法ではあるが、信じるよりないだろう。多分まだ夢の中なのだ。
いつの間にか体が浮上していることに気づいた。飛ぶ夢は久しぶりなので嬉しくな
っ
てきた。しかし意思の自由は効かず、高度ばかり上が
っ
ていく。こんなのは初めてだ。どんどん街が遠のいて、日本列島や地球も越えて、見知らぬ場所で止ま
っ
た。誰か近づいて来る。
※
「お客さん、終点ですよ」そう声をかけられて目を覚ました。と思いきや、今度は起きたままだ。どういうカラクリだろうか。そこで気が付いた。この声は何度も聞かされ続けてきたものに間違いない。駅前の惨状を思い出して怖くな
っ
た。普通の人間ではあるまい。正体を探ろうと顔を見たら、自分にソ
ッ
クリで驚いた。
「ド
ッ
ペルゲンガー
ですよ」「聞いたことがある。会うと死ぬとか」「正確には死ぬと会えるんだけどね。いわゆる死神さ」つまり「人生の終点」という意味だ
っ
たのか。それにしても繰り返し聞かされていたのが、まさか自分の声だ
っ
たとは。そういや録音すると違
っ
て聞こえたりするもんな。
※
周囲はボンヤリしていて、もう一人の自分以外には何も見えない。「ここは天国、それとも地獄?」「さあね?」はぐらかされて嫌な気分にな
っ
たが、相手も自分なので怒るのも気が引ける。それから何の変化もないので、暇つぶしに世間話でもしてみると、非常に馬が合
っ
て楽しい。自分同士だから当然か。
そしてそのまま今に至る。こんなことでいいのか悩ましいけれど、生前のストレスは跡形もなく消え失せていた。それに自問自答から繰り出される発想は、自分自身からすれば面白いものばかりだ。ただそれのみと戯れる時間が無限に続く心地よさ。案外これは天国なのかもしれない。(了)
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