2014年4月22日の物語
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一日早い流星群
茶屋
投稿時刻 : 2014.04.22 23:30
字数 : 1944
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一日早い流星群
茶屋


 4/22
 AM 4:30 
 煙草の紫煙が嫌に目に染みる。思いきり吸い込むと有害な煙が肺と喉を焼いていく。
 最後ぐらい、うまい煙草が吸えるもんだと思ていたが、血の味しかしない。
 あの日見た映画のラストシーンで名前も知らない外国の俳優が吸ていた煙草の銘柄。
 そうだ。
 あれを見て、俺は自分が吸う銘柄を決めたんだけ。
 あれは何年前の話だろう。
 ずいぶん昔のような気がする。
 俺は今、あの映画の主人公みたいに、煙草を吸いながら、死にゆこうとしている。

 AM 0:30
 何時の間にやら日付が変わた。糞みたいな月曜日が終わり、糞みたいな火曜日が始また。今週はあと糞が三つ残ていて、下手したら土曜も日曜も糞になりかねない。底なしの肥溜めに首まで浸かて、悪臭も吐き気も恥すらも麻痺しはじめている。これがこの世界てやつなんだろう。どうせ。クズはクズなり世界しか望めない。教えてやりたいよ、子供の自分に。お前はクズでこの先どうしようもないからととと自殺しろて。
 といても子供の俺が自殺するとは思えないし、俺だて未来の俺に死ねて言われたら自殺するどころかそいつを殴るしな。
 結局のところは今の閉塞感をぶち破る気力もなく、ただ自分を罵倒しながらぐちぐちと不安の泥沼に嵌て行ているだけだ。
 そいつが駄目なのはよくわかているつもりだが、この癖ばかりは直せる気がしない。捨てられないお気に入りの毛布みたいなもんで、どこか屈折した安心感を感じるんだ。
 あとは牛丼屋で飯食て、コンビニでビール買て、風呂入て寝る。そしてまた会社に行くだけだ。
 俺はそうやて、人生を空費していく。

 AM 4:00
 わからない。なんで俺はこんなことに巻き込まれちまたんだ。
 生まれてこの方銃なんて見たこともなかたこの俺が、なんで銃をぶ放してんだ。
 もうどうにでも慣れていう感情の一方で、楽しみ切れないでいる冷静な自分もいる。
 そり、楽しいさ。爽快でストレス発散にもなる。
 そり楽しいけどさ。
 でもさ。
 もういいじん。
 楽しけり
 笑い出しそうになた時、わき腹に激痛が走る。
 痛て。
 なんや。撃たれとるやないか自分。

 AM 1:30
「あざしたー
 やる気のない店員に見送られてコンビニを出る。
 ああ、だるい。何もやる気が起きん。
 ビールの最初の一口だけを楽しみに一日を生きてるような気がする。大した楽しみじないし、半分は習慣みたいなもんだが。
 さて、飲むかと思て缶を開けると同時に、背後から衝撃を受ける。
 そしてするりと手から抜け落ちる缶。
 ゆくりと、ゆくりと地上に落ちていく缶。
 一日の、ささやかな希望。
 ささやかな安らぎ。
 ささやかな、ささやかな幸せ。
 それが今、音を立てて、地べたに、漏れ出していく。

 ぶ殺す。

 全ての希望を失た俺はもう何も怖くない。全速で走て、全力で飛んで、渾身の飛び蹴りをかまし、俺にぶつかた犯人に馬乗りになて殴る。殴て殴て、泣きながら殴て、ビールの仇て言いながら殴て、気が付くと手が痛い。相手の顔は大きくはれ上がている。
 死んだか?
 まあ、いいや。
 立ち上がてみると男のそばに黒い鞄が落ちているのに気付く。
 中には大量の札束と黒い銃が入ていた。

 AM 3:00
  取り囲まれた。よくわからない倉庫で、よくわからん連中に取り囲まれた。
 ああ、わかてる。
 あいつらの狙いはこのかばんの中の札束。
 んでもて、俺がテンパて誰かを殺しちまたもんだから、もう抜け出せなくなちまた。
 何を後悔したところでもう遅い。
 ご愁傷様。
 俺の仕事と仕事と仕事と仕事とささやかなビールの人生はもうすぐ終わりを告げるだろう。
 だけど、その前に、少しぐらいは楽しまんと、な。

 AM 2:00
 なんじこりなんて叫びそうになりながら、鞄の金を眺めていると、
「おいおさん」
 と後ろから呼び止められる。
 あ、ヤクザさんですね。こんばんはー。という暇もなく胸倉を掴まれて何やら喚きたてられる。
 ああ、もううさいな、と思て、思わず銃の引き金を引いた。
 ズドンと勢いよく飛び出した弾丸はヤクザさんのどてぱらを貫いた。
 ついでにもう一発。
 あ、なんか楽しい。笑えてきた。
 愕然としているもう一人のヤクザのほうにも一発ぶちかましてやると、俺はなんだかだんだん楽しくなてきて、ひほいと言いながら走り出した。行く当てなんてない。
 ただ、走り出したかた。
 どこまでも。


 AM 5:00
 ふと時計を見る。もう、5時になるのか。結局、最後の一本のつもりが、三本ぐらい吸てしまた。
 なかなかすきりとは死ねないみたいだし、ヤクザさんもなかなか止めを刺しに来ない。
 段々と、眠くなて気がしないでもない。
 ゆくりと目を閉じる。
 あ、念のため目覚ましかけておこう。
 ああ、それにしても眠い。

<おしまい>
 
 
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