館長さん
小さな町の片隅にある、そんなに小さくない古いお屋敷。幽霊屋敷だなんて噂が絶えないそのお屋敷を改造して、僕はおばけ屋敷を営業している。
小さな町だし、当然住民も多くない。どれくらいお客さんが来るのか、さ
っぱりわからない状態で営業を始めたんだけど。本物の廃墟を改造したかいもあって、ものすごく怖いって評判が遠い町まで広まった。僕の顔も青白くて生きてる人間に見えない、少ない髪の毛が不気味、なんていうのも、おばけ屋敷の営業っていう面から見たらよかったらしい。おかげで、夏には連日行列ができるほどの大繁盛。みんな悲鳴を上げて、最後はにこにこしながら、あー怖かった、って言いながら帰っていく。ありがたいかぎり。
大人も子どもも、楽しく怖がってくれたら本当に嬉しい。暇つぶしくらいのつもりでおばけ屋敷を始めた僕だったけど、それがこんなにも嬉しいだなんて思ってもみなくて。僕は今、本当に幸せだと思う。
おばけ屋敷の経営も軌道に乗ってきた、そんなある日のことだった。
おばけ屋敷に入るのを楽しみに並んでいる行列に、二人の男が割り込んできた。
彼らは、自らを『トレジャーハンター』と名乗った。
この屋敷には、大金が眠っているから探させろと言う。
こんな奴らを屋敷の中に入れるなんて、考えただけで呪い殺してやりたい気分になった。男たちのせいで、並んでいた子どもたちのわくわくした顔が曇ってしまったのを僕は知っていたからだ。
けど、屋敷の中に入りたいという人を断る理由はない。ちゃんと列に並んで、入館料を払うことを条件に僕は男たちの入館を許可した。
日が沈んで入館待ちの列もなくなって、あとは閉館して掃除をするだけ、という段になって。男たちが出てきていないことに気がついた。
まだ屋敷の中を探索してるのかと思ったらうんざりした。そんな大金なんてありはしないのに。
このまま放っておくわけにもいかないし。僕は渋々、屋敷の中を探すことにした。
暗い館の中に、お客さーん……、なんて自分の弱々しい声が響いた。僕の声は、顔に劣らず生気が足りないといつも言われる。ドラキュラみたいだとか。確かに、僕はお日さまの光は苦手だけど。にんにくはどうなんだろう。食べたことがないからよくわからない。
屋敷は二階建てで長方形の形をしている。部屋がたくさん並んでいて、お客さんにはそこを自由に探索してもらう形を取っている。
一階と二階が吹き抜けになっている階段ホール。ここには、この館の主の肖像画が飾られている。暗い中で見ると、この画は本当に怖い、らしい。ここはこの屋敷一番の悲鳴スポットになったのは予想外だった。
赤いカーペットの敷かれたそこを覗いた。あ、と思わず声を上げてしまう。
トレジャーハンターのお二人が、苦悶の表情を浮かべて倒れていた。
二人の男たちは心臓発作で死んでいた。
休日には子どもを連れてよくおばけ屋敷に来てくれる、町のお巡りさんに少し事情を訊かれたりもしたけど、男たちの死に不自然なところはなかったし、病死ということで事件は片づいた。おばけ屋敷がよっぽど怖かったのかもしれませんねぇ、なんて不謹慎だけど僕とお巡りさんは少し笑ったりしてしまった。ごめんなさい、ご冥福をお祈りします。
こんな事件があったんじゃ、お客さんも減ってしまうかな、と僕は不安に思ったのだけれども。実際は逆で、本当に人が死んだらしい、なんて噂が広まっておばけ屋敷はますます繁盛した。迷惑でしかなかったあの男たちも、こんな形でおばけ屋敷に貢献するだなんて思ってもみなかっただろうな。邪見に思って悪かったよ。
おばけ屋敷は怖い。でもみんな、怖いから楽しい。みんなが楽しんでくれるのが嬉しくて、僕はますます怖がってもらえるように、屋敷の飾りつけを工夫する。演出をがんばる。
そういう楽しいがわからない奴は、ほんと、死ねばいいと思う。
怖さが半減しないように注意しながら、閉館後のおばけ屋敷を、僕は今日もせっせと掃除する。
階段ホールにさしかかり、ほうきを動かす手を止めた。かざりのように蜘蛛の巣がかかった肖像画を見上げ、僕はさみしくなった自分の髪を指に絡めた。
一五〇年前は、僕ももう少しハンサムだった。でも、あの頃は人間なんて大嫌いで、そんな僕をみんなは嫌っていた。
この肖像画を見ても、みんな、これが僕だって気づかない。生きていた頃の画の方が怖がられてるなんて、人生、ほんと分からないもんだ。