てきすとぽい
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第17回 てきすとぽい杯〈GW特別編〉
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九朗右衛門事件帳
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2014.05.04 23:32
最終更新 : 2014.05.04 23:33
字数 : 1449
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2014/05/04 23:33:26
-
2014/05/04 23:32:28
九朗右衛門事件帳
茶屋
「幽霊屋敷?ああ、あの襤褸屋敷のことか」
大金九朗右衛門が頬張
っ
た飯を飛ばしながら喋るものだから、吉五郎は顔をしかめずにはおれない。
「そうです。元はどこかのご武家様のお屋敷だ
っ
たらしいんですがね。使われなくな
っ
てからだいぶ立つ。で、近頃幽霊が出る
っ
て噂が流れてるんですよ」
「どうな幽霊が出る
っ
てんだ」
「なんとも聞く人聞く人によ
っ
て話が違うんでございますが、首から血を流した女が出るだとか、一つ目の化けもんが出るだとか、あと人魂
っ
てのありますな」
「そいつ
ぁ
面白そうだな!どうだ。今夜にでも言
っ
てみるか」
「いや、あ
っ
しは」
「何だ怖いのか」
そう言
っ
て九朗右衛門は飯を飛ばしながら笑う。
吉五郎は棒手振、九朗右衛門は町方同心の倅。身分は違うが、どこか九朗右衛門は吉五郎を朋輩のように思
っ
ている。九朗右衛門は町方同心の倅と言
っ
ても五男坊、どこか自分はあてもない浪人になるのだろうというような諦めのようなものがある。そして、暇なのである。
「あ
っ
しは九朗右衛門様と違
っ
て朝から働いておりますからな、夜遅くというのはどうも」
「だが、暗くならねば肝試しというのは面白くなかろう」
「面白い面白くないというものではございませんでね」
「休め休め。明日は休みじ
ゃ
」
こうなるともう九朗右衛門は強引である。夜になれば吉五郎に押しかけてくることだろう。
吉五郎は諦めのため息をひとつついて黙
っ
て頷いた。
「ここかい幽霊屋敷
っ
てのは」
提灯の光に照らしだされた門は朽ち果て、今にも崩れ落ちそうとい
っ
た趣だ。手入れは全くされていないものだから草も生え放題である。
「しかしいいんですか。いくら誰も住んじ
ゃ
いないとはいえ、御武家様のお屋敷で御座いまし
ょ
」
「いいんだよ。これからその屋敷の主とやらに挨拶に行くんだからよ」
「主
っ
て?」
吉五郎が呆けた顔をしたので九朗右衛門が笑う。
「うらめしやのことよ」
うらめしやとは無論幽霊のことであるが、九朗右衛門は幽霊など信じていなか
っ
た。
はじめ吉五郎から話を聞いた時、思い至
っ
たのは盗賊のたぐいである。
人魂というのは盗賊が灯した明かりが漏れたものであろうし、人影が血を流した女にも化け物にも見えたのだろう。
襤褸屋敷が近頃市中を騒がせている鬼鳶一家の根城にでもな
っ
たのではあるまいか、と思
っ
たのだ。
父に言われて盗賊のことを調べあげていたのは最近のことだ。
最近鬼鳶一家が江戸に入り、幾人かの潜伏先も突き止めた。
だが、これだけ噂になればもはや盗賊はおるまい。
何か、証拠の品でも見つかればいい。そうすれば、一家全員を召し上げるのにもう一歩近づく。さすれば九朗右衛門の道も開けれかもしれない。
なら昼間でもいいのではあるまいかと思うのだが、どこか幽霊に怖が
っ
ているふしのある吉五郎をからかうのも面白いのだ。
気楽な調子で屋敷に入り込もうとしたのだが、ふと背筋に薄ら寒いものを感じた。思わず刀の柄に手をやる。
「吉五郎、持
っ
てろ」
火を消した提灯を吉五郎に渡し、いつでも刀を抜けるように両手を開ける。
何やら殺気のようなものを感じるのだが、どうにも読めない。目の前の屋敷にはまるで気配がないのだ。
ふと、背中になにかぶつか
っ
て、力が抜けた。
膝をついて後ろを振り返ると吉五郎が血に濡れた長ドスを持
っ
て立
っ
ていた。
いつもの吉五郎とは違う、冷淡な目をしている。
こいつは、してやられた。
九朗右衛門は笑おうとしたが、何かで喉が詰ま
っ
ているようで思うように笑えなか
っ
た。
吉五郎も盗賊の一味で、おびき出された
っ
てわけだ。
ざまあねえ。
無念だ。
うらめしや。
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