幽霊屋敷から出て来たのは古切手
「おじさんの家には大金があるはずなんだ」と同級生の中村くんが言
った。
「あんな幽霊屋敷に?」僕は半信半疑で聞き返す。
そのおじさんとやらは、浮気がバレて女の人と一緒にどこかに逃げたらしい。残された奥さんは預貯金を処分し、実家に帰ってしまった。残ったのは廃墟と化した洋風な館だけだった。
「もし宝物を見つけたら、半分あげるから、一緒に探してよ」
「宝物って何だよ?」
「わかんないけど、あるんだよ。宝物が」
しかし、こんな田舎にも手癖の悪い連中はいるらしく、テレビや冷蔵庫、布団に衣類、はてはトイレの電球までもがすでに盗まれており、家の中は荒れ放題だった。この上、何の宝物があるというのであろう。
昼間だというのに、薄暗い部屋の中をあちこち歩き回る。何となく怖い気持ちが先立ってはいたものの、何十年も前の古いガラクタを目にすると、昔の世界にやってきたようで、ちょっとだけ楽しい。
「はあ、やっぱり宝物なんてなさそうだね」
中村くんだって、まさかここまで散らかっているとは思わなかったのか、完全に諦めモードだった。僕はそんな中村くんの落胆振りが見ていられなくて、口から出まかせを言った。
「ほら、ごらん、あの壺。あれなんか、鑑定団に出したら、高い鑑定結果が出そうだよ」
「はぁ……」中村くんは溜息をついた。「あれはお父さんが骨董屋で一番安かったのを選んで買って、おじさんにプレゼントしたもんさ。高いわけないよ」
「何だ、そうなのか」残念に思いつつも壺に近づいた僕は、ついその中を覗き込んだ。
おや、何かある。
中村くんを呼んで壺をひっくり返してみると、中には切手の束があった。額面は10円とか5円とかで、消印はないけれど単色の雑な印刷だ。こんなもんだって金券ショップに持っていけば、アイスクリーム代ぐらいにはなるかもしれない。
そう思って、僕たちは金券ショップに切手を持って行った。しかし、店のおじさんは、「子供は無理だよ。お父さんか、お母さんを連れて来なさい」と取り合ってくれない。
仕方がないので、切手は約束通り山分けし、僕はそれを大切に保存しておいた。
それから二十年が経った。東京オリンピックが決まった時、僕はその時の切手のことを思い出した。なぜなら、その切手は東京オリンピックの記念切手だったからである。本当に単色刷りの貧相な切手なのであるが……。
ネットで検索し、その値段を調べてみると、森永のアイスじゃなくて、ハーゲンダッツのアイスが買える程度の値段にはなっていた。おい、日本政府、もっと品薄にするとか考えなかったのかよ! 希少価値なんて全然ないじゃないか。まったくもう……。
しかし、東京オリンピックって1964年じゃなかったっけ? 切手には1940年とか書いてあるものも混在しているんだが。まあ、印刷ミスなら印刷ミスでマニアもいるらしいので、今度切手屋さんに持っていって鑑定してもらう価値はありそうだ。