第17回 てきすとぽい杯〈GW特別編〉
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歌声
茶屋
投稿時刻 : 2014.05.05 23:30
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歌声
茶屋


 <<幽霊屋敷>>。
 <海>の中にはそう呼ばれている領域が幾つか(*整数でカウントができない)存在し、今も融合や分裂、消失を繰り返されている。
 それはかつて<海>がまだ<現実>と乖離していた時代(*時系列という概念を参照)に形成されたネトワーク構造体の一部だといわれている。<現実>と乖離していた領域だが、それは変容以前の<現実>とトポロジーが酷似しており変容以前の世界を類推することが可能である(*類推に類推を重ねて情報量に耐えきれず崩壊を起こしたものも多数いるが)。
 <<彼ら>>が訪れた<<幽霊屋敷>>は比較的初期に<海>から乖離したものらしかた。原初的な運動を持たネトワークで単純なコピー分裂による増殖とエラー増大による<死>を繰り返している。<<彼ら>>はまだ<少年たち>の段階にあたためあくまで好奇心からこの<<幽霊屋敷>>に接触を試みた。接合し、一部を摂取。断片的にその「感」触を確かめ、「見」つめ、<光>にすかしてみる。そのたびに有害な<幽霊>に接触し「呪」われた<少年>を切り離すという単純な手法で防衛を行う(*残念ながらこれは<<彼ら>>の「実験」の<物語>であり<少年>の物語ではない。そのため<呪われた少年>がその後どうなたか、「語」る術をもたぬ)。
 ふと<<彼ら>>は「思」た。<少年>は「呪」われるたびにパージしているが、逆にこちらから<<幽霊屋敷>>に<少年>を打ち込んだ(*打ち込むための手段は様々あるが情報は断片化され「再構築」できない。おそらくDDFによるものと「考」えられる)らどうなるのだろうか。「思」たら確かめる。それが<<彼ら>>-<少年たち>の行動様式である。そうして1人(*整数ではない)の<<幽霊屋敷>>の中へと打ち込んだ。

 そこは幽霊屋敷と呼ばれていた。
 今では誰も寄り付かないから。
 今では誰も住んでいないから。
 だが、幽霊はそこに存在し続ける。
 幽霊は自動的に稼働し続けるように義務付けられている。
 だから幽霊は歌い続ける。
 誰かに聞かれることもなく、誰かに喜ばれることもなく。
 かつて大金をはたいて個人用に構築された幽霊は男の子の姿をしていた。
 壊れたオーオのように繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し、リピートする。
 幽霊はそれでも悲しくない。幽霊はもはや感情のもたぬ自動人形だから。
 悲しくなんてないはずだた。
 
 打ち込まれた<少年>は少年になる情報量がコンパクト化されたがその過程でいくつ(*整数でカウントができる)もの<服>や<玩具>を失た。おそらく<少年たち>との再結合は望めない。<本>として「食」べられればまだいいほうで、おそらく「呪」われたままパージされてしまう可能性が高い。
 最初に接触した<<幽霊屋敷>の構造体は単純なパターンを繰り返し再生する機能を中心としたものだろうか。
 あまり好奇心を刺激するようなものではない。「呪」い殺される前に次の領域に移らなければならない。
 だが、ふとそのパターンがどうにも気になて仕方がなくなた。
 「足」が勝手にパターンのほうへ引き寄せられていく。
 屋敷のほうへ。人気のない幽霊屋敷のほうへ。
 「歌」が聞こえる。
 とても美しく綺麗な声だ。
 単純なパターンのはずなのに、とてもよく馴染んでくる。
 <少年は歌に引き寄せられるように、進んでいた。

 打ち込んだ<少年>は意図もたやすく「飲」み込まれてしまた。これは<<彼ら>>とて予想外の出来事だた。しばし、これは面白い<出来事>なのか「考」える。すると好奇心よりも<恐怖>のほうが大きくなてきた(*これも<少年たち>特有のパターンだ)。そうなればあとはすぐさま退散である。いくつかの辺縁にいた<少年>をばら撒きながら高速で<<幽霊屋敷>>から遠ざかる。

 歌を歌う男の子の動画プログラム。
 商用に作られたものではなかた。
 プロトタイプはNPO法人が制作したものだが、精神疾患患者の音楽療法を意図したものだた。
 歌自体に治療の効果は得られなかたが、ある種の催眠効果があることがわかた。
 そのプログラムの作り出すある種のパターンが原因であるらしかたが、結局のところはわからない。
 ある宗教団体がそれを悪用したからだ。
 その宗教団体が摘発されると同時に、そのプログラムに関する領域はネトワークから遮断された。
 歌う男の子はゴーストハウスに幽閉された。
 長い、長い時間。
 誰も訪れることなく。
 
 だがそこへ一人の<少年がやてくる。
 彼の歌を聞くために……
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