僕がオトコノコを止めた理由
よく出る事で有名な廃墟と言えばどこの地域にもあるものだと思う。
偶々だけど僕の近所にそんな建物があ
った。
これはとある帰り道のこと。
「イトちゃんとミッチー、いいか? ミッションは田中達を驚かせることだぞ」
大ちゃんは誰に聴かれるわけでもないのに小声で言った。
それを聞いたイトちゃんとミッチーと呼ばれた僕はコクリと頷く。
ようするに僕達三人組みは、クラスのいけ好かないやつらに一泡拭かせようと企んでいた。
「でも、どうやって驚かす?」
僕は二人に問う。
イトちゃんは元々眠そうな目をさらに細くして首をかしげる。
そして、提案をしてきたのは大ちゃんだった。
「うーん……田中達は幽霊屋敷に眠るお金を探しに行くって言ってたよなあ
じゃあ誰か地面に埋まって驚かすとか?」
「掘って出て来て驚かすってことね……うん、大ちゃん、普通に死ぬよねそれ」
「だよなー」
笑いながら言う大ちゃんに突っ込みを入れる。すると、普段から無口なイトちゃんが手を上げていた。
「女装して……驚かす……」
「おお! その手があったか! それは怖いし、俺達だってばれないな!」
「じゃあ誰が女装する?」
僕は再び二人に問う。
「……俺は嫌だぞ」
この熱い手のひら返し! 流石大ちゃんだ!感心するやら呆れるやら。
すると、スッと再び手を上げてるイトちゃんがいた。
「イトちゃんならバレねーべ!」
大ちゃんが言う。
「うっしじゃあ女装セットどうする? なんかミッチーの姉ちゃんそれっぽいの持ってるんじゃなかったけ?」
「うん、僕の家になんかソレっぽいものあるから持ってくよ」
「んじゃあ家戻ったら速攻ミッチーの家な!」
それぞれが頷き僕達はそれぞれの帰り道についた。
※※※
「なあ、お前上手いな」
大ちゃんが若干うわずった声で言う。
「え? まあね! 姉ちゃんの手伝ったたりするし」
そんなやり取りはイトちゃんに女物の服を着せ、ウィッグをつけメイクをしている最中の事だった。
というか無我夢中だった。
何故ならば。
イトちゃんが本気で可愛かったからだ。
なんだこの生き物は?
本当に男の子だろうか?
よく見れば長いまつげ、サラサラの髪……そしてその整った顔立。
「……ばれないかな?」
小首を傾げるイトちゃん。
なんか目の前が真っ白になって目眩がする。
その後の事はよく覚えていない。
とりあえず大ちゃんも僕も、あまりの可愛さに驚かすとかそういう次元でなくなってしまい
計画はやる前から失敗に終わった……そして僕は。
※※※
「ねーねー女装しようよー」
姉の声が聞こえる。
「絶対に嫌だ」
僕は答えた。