第17回 てきすとぽい杯〈GW特別編〉
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新幹線の中で
投稿時刻 : 2014.05.06 23:19
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新幹線の中で
なんじや・それ太郎


 広島に向かう新幹線の中で、
「あ、切符がない!」とパパがうろたえ始めた。
「どうしたの、さきまであたでしう」とママが不機嫌そうにつぶやく。
「自動改札はバラバラに通過して、それからパパに預けたのは覚えている。それが私が切符を見た最後」こんな時にも姉ちんは冷静だ。
「パパのポケトに穴が開いていて、そこから落ちたんじない?」僕も何か言おうとして、そう口走たが、
「そんなわけないでし!」と一斉に突込まれる。
 通路でこんな会話を交わしてもらちは明かない。早く自分たちの指定席に座らなければ……。しかし、切符を無くしてしまた以上、どこの席かはわからない。たぶん16号車、というのは合ていると思うのだ。だて、駅に着いた時から、「16号車だからホームの端まで歩くわよ」とママに言われたから。何の証拠にもなりはしないが、あらかじめ切符を見たママの頭の片隅には「16」という文字が刻まれていたに違いないのだ。
 四人分だけ並びで空いた席も見当たらず、所在無く立ち尽くしていると新神戸から修学旅行とおぼしき女子高生軍団が乗てきた。
「先生、指定席がふさがてます」
「ああ、予約ミスだろう。修学旅行のデータをオンライン予約のデータベースに載せる時、夜間バチの処理で人為的なミスが起こたんだろうな」
「ねえ、先生。座りたいんですけど」
「こういう場合、岡山で臨時便に乗て、そこから広島だ。旅行会社の人に交渉してもらおう」
「いいなあ」そのやり取りを聞いていた僕は思わず呟いた。「まるで大金持ち」
「え、何でなん?」と一人の女子高生が僕に尋ねる。
 実はかくかくしかじかと、僕は事情を説明する。
「幽霊屋敷」「きりん」「はい、しりとり終わり!」
 向こうの方では立たままゲームに興じる元気な女子高生がいる。
「ねえ、座りたい?」と訊かれ、僕は素直に頷く。
「じあ、岡山の新幹線に一緒に乗ろうな」
「え?」
「修学旅行の余興で服とか化粧とか用意してあるから、家族みんなで女子高生にしてあげるわ」
 そんなわけで僕たち一家は女子高生に変装し、岡山からの臨時便に乗り移ることができた。しかし、問題は広島駅の改札を抜けることである。
 みんなで考え込んでいると、添乗員がやて来て、「私にまかせろ!」と言う。
「よろしくお願いします」とパパとママが頭を下げると、添乗員は携帯で電話をかけ、
「広島駅の改札から駅員を排除しろ、さもなくば……」と言い始めた。
 何じ、そり? そんなことをしたら添乗員さんは捕まてしまうだろうに。
「何か、国土交通省から業務停止させられそうなんだよね」と添乗員がふてくされて言う。この人、今話題のJTBの人か?
「だたら、その前に人助けのひとつでもしたいでし
「ようわからんけど、拍手な」と扇動され、僕も女子高生たちと一緒に拍手した。
 広島駅に着くと、僕たちはホームに溢れた出迎えの人たちに大歓迎された。もちろん、改札も余裕で通り抜けることができた。しかし、添乗員さんは手錠をはめられ、パトカーに乗せられ連れて行かれた。
 あれから二十年の歳月が過ぎた。添乗員が何を電話で言たのか、今でも僕には想像がつかない。
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