『怪談は幽霊屋敷で』
俺、こういう場所に来るの結構楽しみなんだ。
夕陽が気持ち悪いくらいにぎらぎらしていて、そのくせま
ったく人の気配がなくて。
誰のものでもないアパートなんてあり得ないから、きっと所有者はいるんだろうけどさ。でも、入居者はひとりもいない。板張りの廊下とか、あちこちすり切れている畳とかが、昭和って感じだろ?
今日は、二階の部屋も探検してみようかな。聞いた話だと、部屋の真ん中にぽつんと黒電話がおいてあるとか。しかも、午前零時で鳴り出すっていうんだ。時代錯誤な怪談だけど、ここにいるとあながち嘘って笑い飛ばすのもどうかなって気分になる。
そう、ここは異空間って感じがする場所だから。
黒電話!
私、そういうの大好きなの。昭和レトロ? うん、そんな感じかな。
是非、私のコレクションに加えたい。聞いた話だと、このうち捨てられたボロアパートの二階にあるとか……。ちょっと怖い感じのするところだけど、今はまだ明るいし、それに幽霊なんて所詮嘘だし。いくしかないでしょ? 電話を取りに行くなら今でしょ?
この階段、抜け落ちたりしないよね? 大丈夫だよね??
二階は三部屋か……。
っと、電話があるっていうのは、確か真ん中の部屋だったな。
202号室だ。
ん? 人影??
まさか、な。
あったー!
これよ、これ。黒電話。プッシュじゃなくて、ダイアル式なの!!
あれ? 今、廊下に誰かいたような……。
先客なのか?
開けるべきなのか?
ひょっとして……。いや、まさかな。
どこぞの物好きに決まっている。なら驚かせてやるか。
それっ!
廊下、絶対誰かいるよね??
確かめなきゃ。幽霊って思うから、そう見えちゃうんだよ。
本当に確かめれば、嘘だってわかるはず。
それっ!
……。
なんだ、無人か。
……。
ほら、やっぱり気のせいじゃない。