第18回 てきすとぽい杯
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テーマは自由
投稿時刻 : 2014.06.14 23:44
字数 : 1110
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テーマは自由
山田佳江


「自由てろうそくとプレゼントの箱みたいだよね」
 助手席でスマートフンの画面を見ながら、妻はつぶやいた。
「ふうん?」
 その言葉の意味を、僕は深く考えもしなかた。僕の妻はしばしば理解しがたいことを口にするし、僕になにかの答えを求めているとも思えなかたから。

 第二駐車場に車を停める。少しだけ町を歩き、百貨店に向かう。
「この道を歩くことももう無いのね」
「ああ、新しい車は屋内駐車場に入る高さだから」
 今月末に納車される予定の新車は、七年乗た今の車よりも幾分コンパクトだ。

 結婚して十年目。家族が増えることを想定して購入したミニバンも、結局僕たち二人を乗せ続け、その役目を終える。思い描いていた未来とは違うけれど、まあ悪くない人生だと思う。

 デパ地下の食料品売り場で、妻はハーフカトのメロンを選んでいる。
「切てないやつの方がいいな」
「そんなにたくさん食べられないでしう」
「食べられるよ」
 僕は丸いメロンのひとつを適当に手に取る。妻は唇を尖らせ、店員にメロンの代金を支払う。
「そうやていつも欲張て、大きいものを買うんだから」
「足りないよりはいいよ」
 青果店の紙袋を僕が持つべきだろうか。そんな考えが頭をかすめるけれど、妻はどんどん歩いて行てしまた。まあいいや。

 洋菓子コーナーに展示された華やかなケーキが、なぜだか僕を不安にさせる。なんだろう。妻の誕生日はまだ先だ。だけどなにかを忘れている。僕にとてはそれほど大切でもないことなのだろう。
「大切なことを忘れてたわ」
 マカロンを見ていた妻が、僕に青果店の紙袋を手渡す。そうして足早に人混みの中へと消えていく。

 ぼんやりと水ようかんを見たり煎餅を見たりしていた。だけど妻は戻てこない。彼女の言葉を思い出し、その意味を考える。自由が……なんだけ。

 紙袋は予想より重くて、僕はメロンが疎ましくなてくる。妻はこれを軽々と持ているように見えたのに。
 自由。それがなにに似ていると彼女は言たのだろうか。僕になにを伝えようとしていたのだろうか。

 妻は戻てこない。僕は不安になり携帯電話を取り出す。Eメールが一通届いている。 メールの受信時刻は数十分前だた。ちうど駐車場に車を停めている頃のものだ。差出人は妻だた。件名に「自由」と書かれている。
「え……?」
 拍子抜けするような内容だた。「自由」という文字のあとに、ろうそくとプレゼントの箱の絵文字。確かにそのカタチはよく似ている。

「おまたせ」
 妻が笑顔で戻てくる。
「どこに行てたの」
「トイレトペーパー買うの忘れてた」
「なにもここで買わなくても」
「すぐ買わないとまた忘れるし」

「メール見たよ」
「えー、今頃?」
 現実は意外とシンプルだ。
 
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