てきすとぽいトップページへ
第19回 てきすとぽい杯〈日昼開催〉
 1  3  4 «〔 作品5 〕» 6  9 
転生々
muomuo
 投稿時刻 : 2014.07.13 16:14
 字数 : 2347
5
投票しない
転生々
muomuo


……ん、雨?」
 目覚めると、なぜかいつもの海浜公園に寝そべていた。真夏の青空が目に沁みる。
 柔らかな風。刈り込まれた芝生の感触と匂いが潮騒に混じるこの感じて、やぱり心地いい。
「なんだ、いいお天気じない」
 起き上がるときに触れた部分が少し濡れていたけれど……大丈夫、犬の臭いはしないし、細かいことは気にしないことにした。というのも、もと大きな違和感が襲て来たからだ。
「あれ……宿題、まだ終わてなかたはずなのにな」
 どうも記憶が“飛んでいる”のである。期末試験前の一周間に当たるから、今日は部活もすぐ終わり、早めに帰宅していたはずだた。そしてあまりに早く家に帰ると小学校時代を思い出すのか、宿題を済ませてからでないと外に出歩いたりできなくなる性分なのだ。ましてもう中学3年生。受験を控えた身の上でこんな暴挙に出たなんて、自分にとては信じがたいことだた。
「やあ、起きたみたいじの」
「ふお!?」
 いきなり背後から話しかけられて変な声を出してしまた。恐る恐る振り向くと、髭まで白髪の7080歳くらいのおじいさんが異様に笑顔を振りまいて立ていた。
「な、なんですか……?」
 怖い感じは全然しないけど、私に何か用でもあるのだろうか。なんだかこの公園には似つかわしくない気がする。
「ホホホ………驚かせたかの? 儂は式神。神の使いじよ」
……は?」
 えーと、大丈夫かなこのおじいさん。人間じないつもりみたいだけど……。何か悲しいことでもあたのなら、優しく接してあげたいとこだけど……受験生は忙しいからな。
「すみません、あの……
「ここはの、君にとてはもう一つの世界じ。分かりやすく説明するなら……君は、並行世界に転生したんじよ」
 う……いよいよ何の事だか分からないです。ごめんね、おじいさん……
「すみません、私、急いで帰らないといけないので……ごきげんよう、さようなら」
 少し気は引けたけど、まだ明るくて公園にはたくさん人もいるし、私はそそくさとその場を立ち去た。しばらく歩いているうちにやぱり気になて振り返たのだけど、意外にもおじいさんがハンカチを振て見送てくれていたので安心した。

 けれど不安はすぐに膨らんでいた。ますぐ家に帰てきたはずなのに、どうにも様子がおかしいのだ。
「高遠……? 何この表札……
 近所の家並みも、家の庭木の様子も違うので、違和感は遠くからでも感じられていた。それが決定的となたのが門構えの変わりようである。玄関はもちろん、表札の苗字が違う以上は明らかに別人の家としか思えない。
……チコ、いないのチコ?」
 この辺りにしばらく住み着いている野良猫を呼んでみるけれど現れる様子はない。煙草の自販機がなくなているけど、裏手の基地局はそのままなので場所に間違いはないはず……
「え、スマホがない……!? そんなはず……
 地図を確認しようとして初めて気がついた。今年やと買てもらたスマホを持て来ていないのだ。そして、家の鍵も財布も、何ひとつ持ち出していないことに茫然としていると……
「そら、やと追いついた」
……え?」
 振り向くと、あのおじいさんがそこに立ていたのである。
(付けられた様子はなかたのに、どうして私がここにいる……?)
「ここは並行世界と言たはずじよ? もうそこは君の家ではないのじ
 ……そういえばこの人、私が転生した……。転生?
「これを使うといい。この住所に行けば、新しい家を用意してあるでな」
「転生……あ私、死んじたの?」
 すると、白髪の老人は初めて顔を曇らせてから答えたのだた。
……普通の人間なら、死んだらそれまでじ。だが君は、とても心映えの優しい女の子じたからの」
 優しげな声が、余計に真実味を帯びさせて……私はだんだん言いようのない恐怖に包まれはじめていた。
「たとえば、いじめられていた少年を庇たり、自殺しそうになていた人を助けたりしたじろう? きと神様が、一度だけ願いを叶えてくれたのじよ」
「でも……でも、お父さんもお母さんも、誰もいない世界なんて……嫌だよ、帰してよ!」
 しかし老人は、悲痛な面持ちでただ謝るだけ謝て、そそくさとその場を立ち去るのだた。
……儂は神様ではないから、どうすることもできないんじ……。すまんの、美奈子くん……


 これから自分はどうなるのか、どう生きて行けばいいか。道が見つからない。自分の家もやぱり見つからない。ほとんど見知らぬ街並みと化した大通りにまで繰り出して、夕方になても当て所なく彷徨い歩いていたときだた。字幕から何から全部が英語の番組がスクリーンに映し出されるなか、ニス速報らしきものが流れはじめたと思たら、現れたのがなんとあの老人だたのである。
『ドクター田尾野! 田尾野博士!』
 中学生のリスニングでは内容なんてほとんど分からない。けれど老人の名前が呼ばれたらしいこと、老人が逮捕されたらしいことだけは分かたので、すかり混乱しながら見入ていた。……田尾野? どこかで聞いた名前……1年のとき、ハンカチを貸してあげた同級生にそんな名前の人がいたような?
『ドクター田尾野、50年前に実在した人物の記憶を再構成してクローンに移植した罪で自首されたと伺いましたが、本当ですか? 今のご心境は?』
……儂は、この日のために研究者になた。どうしてももう一度彼女に会いたくて、彼女に人生を生きてほしくて、脳組織における記憶の再構成技術を完成させたのだ。どうすれば彼女の笑顔にもう一度会えるのか、その答えを捜し続けた人生だた。たとえ重罪と言われようとも、儂の人生に悔いはない。ただ……彼女のことは、そとしておいてくれたまえ』


                         <了>
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない