第19回 てきすとぽい杯〈日昼開催〉
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王女さまの薬指
投稿時刻 : 2014.07.13 16:14
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王女さまの薬指
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 その年、16歳になった王女さまは、この国で一番美しい女の子でした。
 ウェーブのかかった長い髪は輝かんばかりの黄金色、白い肌は透き通り、頬は林檎のようにほんのりと染まり、瞳は海のような澄んだ青。優雅な動きでゆっくり歩くその姿を見て、ため息をつかぬ者はいません。
 王女さまが美しいのは当然のことです。王女さまのお父様である王様はあまり美男とは言えない容姿でしたが、王女様のお母様であった人は、それはそれは美しい人であったのです。花街で一番の人気であったお母様は、王様の気まぐれで見初められ、宮中に上がりましたが、高貴な人々作る社会に馴染むことができず、心を病んですぐに死んでしまいました。
 王女様は生まれたときから美しかったので、王様の正妻である王妃様や、その他の宮殿の人たちに、生まれてすぐに激しく疎まれました。その身を案じた王様は、宮殿から少し離れた小さな宮に王女さまを隔離して育てることにしました。さみしい離れで少ない使用人に、はれ物に触るようにして育てられた王女様は、たいそう我が儘に育ちました。
 美しいお姫様が望んで手に入らないものはありませんでした。どんなものだって、欲しいと言えば、王様や家臣たちが必死になって探して手に入れてくれるからです。それでもあまりにもそんなことが続くと、王様はさすがに、たしなめなければならないなあと思ったのでした。
「娘よ、王女よ、確かにお前は美しく、この豊かな国の王女ではあるが、この世のすべてが手に入るわけではないのだよ」
 王女様は美しく、少しだけかしこかったので、そうやって言われてから、なんでもすぐに欲しいと口にするのをやめました。
 代わりに、今度は、ものをなくしたふりをするようになりました。
 たとえば、王女様は赤い宝石のついた首飾りが欲しくなりました。そうすると、
「私の大事にしていた、赤い宝石のついた首飾りがなくなってしまったわ。探してちょうだい」
 と召使いに言い放つのです。これはおねだりではなく、探し物の捜索依頼なのです。だから召使いがそれを断る術はありません。探し物を探すふりをしながら、どこからか赤い宝石のついた首飾りを手に入れ、何事もなかったかのように、それを王女様に献上するのです。
 ほとんどの召使いは、これがわがままで美しい王女様のお戯れだと理解していましたが、ごくたまに、特別に察しの悪い召使いがいて、愚直にも王女様の探し物を一日中宮の隅から隅まで探し回り、真夜中に、見つかりませんでしたと報告をします。王女様は美しく少しだけかしこかったので、自分より愚かな召使いが許せませんでした。王女様はその召使いに辱めを与え追放しました。
 この王女様の悪行を耳にした王様は困り果ててしまいました。これだけわがままな王女様だと、これだけ美しくとも、お嫁の貰い手がなくなってしまうのではないかと心配になったのです。王女様はその年、16歳になりました。改心させるにはまだ間に合う歳です。美しい盛りに、その美しさに目のくらんだ遠い国の王子さまにでも連れて行ってもらえば、遠いその地で大人になってくれるのではないかと思った王様は、北の北の遠い遠い国の王子様との縁談をまとめました。
 王女様は美しく、どんなものでも手に入れられる王女様でした。なのに、遠い遠い、自分よりも貧乏な国の男と結婚しなければならない自分の運命が許せず、毎日毎日泣き明かしていました。
「王女様、美しい王女様、遠い国の王子様のもとへ嫁ぐことの、何がそんなにお嫌なのですか。王子様は王女様を心底愛して、大事にしてくださいますよ」
 と、召使いの一人が尋ねました。王女様は真っ赤になった目でじっとその召使いを睨みつけました。この召使いは、王女様が一番気に入っている召使いでした。遠い昔、城下町で偶然見つけて拾った、醜い娘でした。貧乏な家で、奴隷同然に扱われていた娘は、生まれながらにして孤独な王女様よりもずっと惨めだったので、手元に置いておきたくなったのでした。
「嫌に決まっているわ! 遠い遠いここより貧乏な国に行ってしまったら、今みたいに欲しいものが何でも手に入らなくなってしまうんだもの!」
 と王女様は叫びました。
「では、王女様はどんなものが欲しいのですか」
「例えば、たくさんのフリルが付いた純白のドレスよ」
「王女様はお美しいので、王子さまがきっとご用意してくれますよ」
「それから、大きなエメラルドがついたティアラ」
「それもきっと、王女様はお美しいから、王子様がご用意してくれますよ。そうでなければきっと、王様が遠い遠い国まで贈ってくださるでしょう」
「それから、指輪よ」
 そう言って、王女様は自分の左手を窓から入り込む太陽の光にかざしました。
「見て、私のこの美しい、左手の薬指を。ここには、ダイヤモンドのはめ込まれた純金の指輪しか似合わないわ。あの王子が送ってきた小さな安っぽい指輪は、私の指にふさわしくないのよ!」
 召使いはため息をつきました。
「そうですね、美しい王女様。あの指輪は、簡素だけれども、王子様の愛がいっぱい詰まっている世界に一つの指輪です。美しい王女様の指には似合わないでしょう。かわいそうな王女様」
 憐れむようにしてそういうと、召使いは去っていきました。
 王女様はとても許せない気持ちになりました。どうしてあの召使いに、かわいそうなどと言われなければならないのでしょう。すべては父王のせいです。宮殿のいじわるな人々のせいです。心の冷たい召使いたちのせいです。そして王女様自身が美しいせいです。
 王女様は遠い昔に護衛の騎士から取り上げた美しい装飾の施された短剣で、この国で一番美しい左手の薬指をざくりと切り落としました。
「私の大事にしていた私の左手の薬指がなくなってしまったわ。探してちょうだい」
 召使いたちは震えあがりました。王女様には確かに左手の薬指があったはずなのに、本当に無くなっていたのです。これは、いつものお戯れではありません。蒼白になって、皆が宮中を探しています。
 捨てられた美しい指を最初に見つけたのは、王女様が一番気に入っていたあの醜い召使いでした。
 池に捨てられていたそれを大事にハンカチーフにくるみ、召使いは王女様に差し出しました。
 それから、自分の持っていた錆びついた短剣で、自分の薄汚れた左手の薬指を同じように切り落としました。
「王女様、私のこの醜い薬指を、代わりにお召ください。この汚れた薬指は、どんな指輪をはめても、美しく輝くでしょう。この指に指輪をはめれば、王女様の美しい孤高の心は、王子さまのものにも、誰のものにもならず今のままでいれられますから。その代わりに、王女様の美しい薬指を、この国で一番醜く哀れな私に譲ってはくださいませんか」
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