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第20回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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三位頼政の弓
茶屋
 投稿時刻 : 2014.08.16 23:09
 字数 : 1000
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三位頼政の弓
茶屋


 外の喧騒がまるで虚構であるかのように平等院の中は静まり返ている。
 わしとしたことが時機を見定め誤たか。
 今更悔いても詮無き事とは言え、色々と思い返してしまうのである。
 頼りにしていた延暦寺は立ち上がらず、緒戦の敗北が続き宇治川でも多くの兵も失た。
 以仁王だけは血路を開いて逃がしたものの、傷を受けた嫡男・仲綱は自害を遂げた。
 此処が落ちるのも時間の問題だろう。
 そんな状況で、頼政は何故だか落ち着いていた。
 愛用の弓を取り出し、ふと眺めてみた。
 これとも長年の戦を共にしたものだ。
 保元・平治の乱、そして何とも言ても鵺退治だ。

 頼政がまだ若かりし頃の話である。
 御所の清涼殿に夜な夜な化け物が出るという噂が立た。
 奇妙な声で鳴き、黒煙を立ち上らせているというのだ。
 折しも二条帝が病に伏しており、その病状は日に日に悪くなていくのだと聞く。
 それ故に帝の病は化け物仕業ではあるまいかという噂になているのである。
 頼政がそんな噂を耳にした数日後のことである。朝廷の高官から呼び出しがかかり出向いてみれば、その妖魔を退治してくれという。
 早速その晩、頼政は祖・源頼光より引き継ぎし弓を持て清涼殿へと向かたのである。
 うわさに聞くように底には黒煙が立ち込め、何とも不気味な声で鳴くものがた。
 当代随一とも言われる強弓である頼政が一念を込めて矢を放つと、それは見事に不気味な化け物に命中した。
 断末魔のような不気味な声が鳴り響き、黒煙と共に清涼殿の北方へと墜落していくのが見えた。
 早速家来の猪早太とともに向かうと一匹の獣がそこにあた。
 顔は猿、胴は狸、手足が虎で、尾は蛇の化物である。
 暴れるそれを早太に取り押さえさせ、一太刀を浴びせてトドメを刺した。
 すると天皇の病は晴れ、万事解決と相成り、武を持て魔を払う頼光の裔として生まれた頼政にとては面目躍如の働きだた。

 あれからどれほど経てしまたのか。
 今では老いに老いた。
 魔を払てきたこの弓も今では人の血が染み込んでいる。
 猪早太ももはやすでに亡い。
 今でも腕に自信はある。この破魔の弓さえあればどんな妖魔が現れようとも討ち果たしてみせる。
 だが――
「この矢も天下には届かなかたか」
 自嘲気味に笑た頼政は刀を手に取り、渡辺唱に目で介錯するように合図する。
 ――悪入道よ、先に地獄で待ておるぞ。

埋木の花咲く事もなかりしに身のなる果はあはれなりける

 治承四年五月二六日、源三位頼政自害。
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