傾国の美女
かつて「聖戦」で失われた原生林について調べる旅を続けている我々であるが、大陸東部の小さな村で気の触れた老婆に会
った。証言としてのの信憑性は薄いと思われるが、参考までに以下に聞き取りの内容を記録しておこうと思う。
「
物心ついたときには、神も人も、憎んでいました。
私の住んでいた村は、神の加護を受けられなくて。大陸の中央の邑は、毎年神からの恵みを受けて豊かだったのに、私の村はいつも実りが少なくて、貧しくて、惨めで、こんなに祈っているのにどうしてって悔しくて。
そんな私の唯一の希望はね、△△△(聞き取り不能。古代語の名前のようである)でした。二つ年上の従兄弟。狩りが上手で、たくましくて優しい人でした。
私が12のとき、2年経ったら一緒になろうと約束して、彼は中央の邑に稼ぎに行きました。それから1年も経たないうちに彼が死んだと知らされたんです。
毎晩泣きましたよ。このまま死んで彼のところに逝きたいと思っていました。
そんな中、中央の邑から使いが来て、村から一人、神への貢ぎ物となる女を差し出せと要求されたんです。
私は迷わず手を上げました。村には他にも若い女の子がいましたが、未来があった。△△△を失った私にはもう何も残されていないと思って……
こんなことになったのもすべて不平等な神のせいだと思うと、死ぬ前に神に一矢報いてやりたくなったのです。
私は三賢者に巫女としての教育を施され、たった一人、天上界へ連れて行かれました。そして、あの寂しい宮殿で、あのひとに出会ったんですよ。
私は、神であったあの人を愛してしまったんですよ、男として……気高く、力強く、だからこそずっとずっと孤独なあの人を……
△△△を失って何もなくなったと思っていた私が、まさか天上界で人生を新たに始められるとは思いませんでした。
でもそれも長くは続きませんでした。
人々は怒り狂い、大陸を焼いて天上界まで責めてきた。
そしてその戦士の中に、死んだと思っていた△△△が……
目を疑いました。でも確かに、△△△なんですよ。
私は△△△への愛は失っていませんでした。でも△△△に捧げるつもりだったこの体は、もうあの人のものになっていたのですよ。私は△△△の姿を見て、恐ろしくなって逃げ出そうとしました。でも△は私を逃がしてはくれなかった……
」
ここで老婆の娘と名乗る女が現れ聞き取りを中断させられる。
この東の村は原生林が残り怪奇現象が起こると言われる村である。