第20回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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酔いどれペンギン剣士
投稿時刻 : 2014.08.16 19:29
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酔いどれペンギン剣士
晴海まどか@「ギソウクラブ」発売中


 我が輩はペンギンである。
 名前はまだない、と言いたいところだが実はちんとある。だがそんなものは過去のもの、今はただのペンギンということでひとつよろしくお願いしたい。
 我が輩は、こう見えてかつては人間だた。十代の頃は国で三本の指に入る剣士さまに認められて弟子入りし、二十歳を過ぎた頃には一流の剣士として国中に名をはせた。あの頃が我が輩の人生で一番光輝いていた時期だたであろう。富も名声も女も欲しいものはなんでも手に入れた我が輩には向かうところ敵なしだた。

 だが、そんな我が輩は今では名もないペンギンである。

 我が輩がペンギンへの転身を遂げる一番のきかけは、“愛”だた。
 我が輩には妻がいた。国の名士の一人娘である。それなりに美人ではあたが、気が強くわがままで、我が輩はいつも手を焼かされていた。
 ある日、サーカスの一味が国にやて来た。そこにいた踊り子に、我が輩は一目ぼれをしたのである。
 それは雷に打たれたような衝撃だた。我が輩は二十五歳にして、初めて本物の愛を知たのだ。
 サーカスの公演に足しげく通い、名のある身分になていた我が輩が踊り子に会うことは簡単だた。我が輩は踊り子の彼女と通じることに成功した。だが、浮かれていた我が輩は迂闊そのものであた。サーカスの最後の公演後、我が輩と彼女の密会はあさり妻にバレた。
 我が国では不貞は重罪だた。こうして我が輩は、命からがら国を追われることになた。

 落ちぶれた我が輩は、小さな国や集落を酒を飲みつつ転々としていた。酒だけが友であた。
 そうして何年かのち、ある辺境の国で極上の酒に出会た。これまで出会たことのなかたその酒に、まるで彼女と出会たときと同じような衝撃を受けた。
 だがそれは、魔女の呪いにかかた酒だた。
 酒に酔い潰れ、翌朝目を覚ました我が輩は、くちばしを持た生物の姿に変わていた。

 こうして、我が輩はペンギンとして第二の人生を歩き始めた。
 ペンギンになてからの方が頭がすきりするようになた。おまけに酒をいくら飲んでもへらだ。ペンギンなりに剣の腕も磨き、時にはキツネを狩て毛皮を売たりして生計を立てた。
 言葉を話し、剣も使い、毛皮も売り、そして酒を飲む我が輩には今、一つの目標がある。彼女のいるサーカス団を探し出して一味に加わること。我が輩はその目標のため、日々キツネを狩りつつ剣の腕を磨き、酒をたしなみ続けている。
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