不幸な話買い取ります。ただし…
Case1:40代女性の場合
『私の話を聞いて欲しいのです。
私はごくごく普通の家庭に生まれてごくごく普通に育ちました。
22歳の時に母親が亡くな
った時はこんなことが何故自分の身に起こったのかと人生を恨みもしました。
それでもその後結婚して子宝にも恵まれ今まで来ました。
ただ一つ気がかりな事がずっとあります。私自身も子どもが22歳になった時に命を落とすんじゃないかと。
考えてみたら私の母も小さい頃に母親を亡くしています。私もきっと同じように早死にするとDNAに組み込まれていると思っているのです。
果たしてそうでした。先日医者に言われました。後半年です、と。
半年後、子どもが22歳になるんです。こんな不幸な事があるんでしょうか』
女性がこの部屋に入ってきて語った不幸な話を聞いていた僕はスッとその女性の前にキーホルダーを滑らせた。
『あの…これは?』
「見ての通りキーホルダーです。それを良く見てください。何のキーホルダーが分かりますか?
そう、そこに付いているのはホラ貝です。今のお話の代金ですよ。
あなたはご自分の命が後半年と言いましたが、それはでたらめですね。
医者は後半年で完治しますよ、と言いませんでしたか?
お帰り下さい」
Case2:18歳A子の場合
『うっわ~、何この部屋。暗くない?ま、こっちの方が話しやすいか。
あのさあ、私の話を聞いてくれる?
私ってば全然不幸じゃないんだよねえ。もうホントこれ以上ないって言うくらいハッピー。
だってさ、ずっと好きだった彼と付き合い始めて3ヶ月だし、無事高校も卒業出来たし?
もうすっごい幸せな訳。だったらここに来るなって言うんでしょ?
からかいに来たに決まってるじゃん。不幸な話を買い取りますって笑えるぅ。
キャハハハハハ。
あんたも暗いよねえ。ホントあんたが一番不幸そうだよね』
「そうですか?あなたよりは幸福だと思いますよ。
あなたの話は納得できません。
まずあなたの言う彼はあなた一筋ではないですね。
あなた以外にも付き合ってる人がいた事をあなたはつい最近知ってショックを受けた。
高校は卒業したけれどその後の進路は未定。
ここにはからかいに来たのではなく救われるために来たのではないですか?
これを差し上げます。お帰り下さい」
ホラ貝のキーホルダーを渡し、彼女が部屋を出て行ってすぐに部屋のカギを閉めた。
ふうぅ、疲れた。人間の姿を保つのは非常に疲れる。
今日の予約分は終わった。
明日は3人か…。
人間と言うのはでたらめな話や物事の本質から目を逸らすものなのか。
僕の求めているのは真実だけだ。
本当の不幸話。これほど美味しいものは無いだろう?
今日も予約のメールが数通舞い込んでいた。
【不幸な話買い取ります。ただし真実のみ】