てきすとぽい
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【BNSK】品評会 in てきすとぽい season 8
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〔 作品7 〕
フィッシュ・アンド・チップスを空に投げる日
(
木下季花
)
投稿時刻 : 2014.11.29 21:24
最終更新 : 2014.11.29 22:36
字数 : 9935
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2014/11/29 22:36:58
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2014/11/29 22:35:12
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2014/11/29 22:34:08
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2014/11/29 21:31:45
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2014/11/29 21:28:18
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2014/11/29 21:26:20
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2014/11/29 21:24:46
フィッシュ・アンド・チップスを空に投げる日
木下季花
これはま
っ
たく本当にうんざりすることなんだけれどさ、例えば日曜日の朝に君は、そうだな、午前十一時半くらいに目覚める予定だとするだろ。もちろん平日は学校に通
っ
ているから朝の六時半くらいには起きてなければいけないんだけれどさ、休日だから午前中は寝ていても大丈夫なわけだ。だから午前中た
っ
ぷり寝ていようと君は意気込んでベ
ッ
トに入
っ
て目を瞑り続ける。でもそうすると必ず、変なタイミングで、例えば朝の八時十七分とかに君のママが起こしに来るんだよ。それも必ず理論も何もあ
っ
たものじ
ゃ
ないくだらない言い訳を引き連れながらね。例えば今から掃除をするからさ
っ
さと起きなさいだとか、朝食を片付けなければいけないからいい加減に起きてち
ょ
うだいだとか、このママのくだらない言い訳に関しては僕はもうあと千個くらいび
っ
しり挙げられるけれどさ、とにかくママは後回しにできるような用事を伴
っ
て僕の休日のリラ
ッ
クスタイムをぶち壊すべく僕の部屋に入り込んでくるわけなんだ。眠
っ
ている僕を叩き起こしにね。いや、何も僕はママのことが嫌いだとか、執拗に責めたてたいとかいう気分ではないんだ。ただそうや
っ
て起こされた時に僕はいやに感情的にな
っ
て、それこそママを何よりの敵だと思い、殺してしまいたいくらいにイライラさせられち
ゃ
う
っ
てだけの話でね。
とある学力テスト明けの休日にも、ママは例のごとく、三流のコメデ
ィ
ー
弁護士でも使わないような理論を用いて僕の部屋の戸をノ
ッ
クもせずに開けたわけだ。「ねえ、妹が部屋から出てこないのだけれど」と言いながらね。もちろん突然起こされた僕としては、イライラするわけだよね。僕は口を開きながら母親に向か
っ
て、知らないよ、そんなこと僕が知るわけないだろう、そもそも何で朝
っ
ぱらからそんな理由で起こされなくち
ゃ
いけないんだよ、妹のことぐらい妹の好きにさせてやれよ、それは彼女の人生なんだし、せめて休日くらい彼女の好きにさせるべきだよ、彼女が部屋から出てこないのも彼女の自由だし、たとえ彼女が部屋の中で好きな男の子を妄想しながら壁にキスをしていようが、シルバニアフ
ァ
ミリー
のウサギのどれかにその男の子の名前を付けて擬似的な家庭生活を演じさせていようが、それは彼女の自由なんだから彼女が部屋から出てこないくらいで僕を起こすな、
っ
ていうことを本調子の僕なら畳み掛けるように言
っ
ていただろうけれど、いきなり眠りから起こされて舌も頭も回らない僕は「なんだ
っ
て?」と聞き返したんだ。僕の部屋の扉の前で草の匂いを嗅ぎまわりながら変な声で鳴くヤギみたいな恍けた顔をしてるママに向か
っ
てさ。ママは壁に寄りかか
っ
て腕を組みながら、もう一度は
っ
きりとした声で言
っ
た。「妹が部屋から出てこないのよ。だからあなたにどうにかしてもらいたく
っ
て」。
僕はママに散々「くだらないことで僕を起こすな」という意味の言葉を七百通りの言い回しで言
っ
てから部屋を出て、リビングのテー
ブルに置かれていた段ボー
ルの味がしそうなベー
グルを掴んで口に入れながら妹の部屋に向か
っ
た。妹に関して事前に言
っ
ておきたいのだけれど、妹は、何と言うかとても神経質な人間なんだ。と言
っ
ても彼女は君が想像するような神経質とは、またち
ょ
っ
と違
っ
た種類の神経質さを持
っ
てると言えばいいのかな
……
。上手く言えないんだけれど、例えばね、他人が触れた物にはきちんと消毒してから触らないと気が狂いそうになるだとか、集中している時に喧しい物音を立てられると発狂するだとか、自分が望んだとおりの受け答えをされないと気が触れたように怒り狂うだとか、部屋の中にある柱の角とか扉の細い方の側面だとかなんだか威圧感を覚えさせる三角形のとが
っ
た部分を見ると狂
っ
たように頭が痛くな
っ
て死にたくなるだとかみたいな、僕が幼い頃から抱え続けている神経質さとは違
っ
て、妹はただ、とても人間に対して敏感で、僕らの周りにいるすべてのくだらない人間を軽蔑していて、とてもうんざりさせられている
っ
ていうだけの子供なんだ。それが彼女の持つ神経質さなんだよ。
彼女は僕とキリストと、それから数人の哲学者や、近所の良識のある人にだけは忠誠を誓
っ
ているけれど、それ以外の人間はもう殺したいほどにうんざりとさせられているんだ。ママだ
っ
て機会があれば殺してあげてもいいと思
っ
ているくらいに、何と言うかほとんどの人類に対して蔑みを感じていて、妹は己の中の完璧さを他人に求めてしまうタイプなんだよ。彼女は常に聖書やらなんやら、巡礼だとか祈りだとかそういう言葉が入
っ
たタイトルの本を読んだり、近所に住んでいるカソリ
ッ
ク系の大学に通
っ
ていたお姉さん(この人は割かし僕らの好む人ではあるんだ)が持
っ
ている宗教概論の書だとか、そのような本を部屋の本棚に詰め込んだり床に散らばせたりしながら黙々と読み続けている奴なんだ、まだ十一歳なのにだぜ。大学の比較宗教学だとか宗教概念あるいは宗教の死についてだとか僕らを脅かすようなタイトルの付いた本ばかりを読んでいるんだ。なにせこいつは頭が飛び
っ
きり良いんだよ。馬鹿馬鹿しく机に座りながら数を数え続けている君らとは違
っ
てね。もちろん万年成績下位の僕なんかとも違
っ
て、妹は何を間違
っ
てママのお腹の中に宿
っ
てしま
っ
たのかと思う程に、圧倒的な知識欲(偏
っ
てはいるけれど)とIQを持
っ
て生まれてきた、人類に対して神経質な女の子であるわけなんだ。だからママはさ、そもそも妹のことなんかま
っ
たく理解できていないんだよ。僕らとは、そう、普通の人間とは違う
っ
てことを全く理解していないんだ。ママほどのち
っ
ぽけな蛙の脳みそじ
ゃ
理解しきれるわけもないんだろうけれどさ、妹を僕らのような普通の生活に落とし込むこと自体が間違
っ
ているんだ。妹は神経質な天才であるわけなんだから、だから部屋で好き勝手に学ばせることこそが正解なのに、ママは馬鹿だから妹をキチガイばかりが集まるIQが130ぽ
っ
ちしかない子供が集ま
っ
たスクー
ルに通わせたり、彼女にはもう生活の中で理解できている数学なんかを机に座らせながら復習させたり、と
っ
くに通り越している科学のある部分を馬鹿みたいに宿題で出したり、そんな意味もないことを強制させるんだな。そり
ゃ
いくら温厚な妹であ
っ
ても学校やママにはうんざりさせられち
ゃ
うだろう。ママに心配かけたくないという理由から嫌々スクー
ルに通
っ
てあげているのに、休日でさえママの『普通』の考えに付き合わされて一緒に朝食を食べさせられたりお使いに出されたりとい
っ
た彼女のペー
スを乱される行動をさせられるんじ
ゃ
、妹もお冠になるのは当然だ。とことんママを無視して部屋に閉じこもるなんて当然のことだよ。僕だ
っ
て妹の立場だ
っ
たらそうするさ。もちろん僕は妹よりも頭は悪いけれど、心は妹と同じくらいに高潔なんだ。
部屋に入ると妹は例のごとく宗教関連の本を読みながら一人でぶつぶつと何事かを喋
っ
ていた。残暑の残る季節だと言うのに頭から毛布をかぶ
っ
て、ソフ
ァ
ー
に横になりながら彼女はなかなかに素晴らしい死んだような目つきをしてそれを読みふけ
っ
ていたんだ。
「お兄ち
ゃ
ん、部屋に入るときはノ
ッ
クして
っ
て言
っ
たよね、まあ別にお兄ち
ゃ
んだ
っ
たらノ
ッ
クなしで入
っ
て来ても私は幾らでも歓迎する気持ちはあるんだけれどね、それでも誰が入
っ
てくるか分からない状況で誰かがノ
ッ
クもせずに私の部屋に入り込んでくると言うことはなかなかに恐ろしい事なのよ、私はみんなみたいに無神経でいられないし誰か見ず知らずの人が、私の恐れるような人が無遠慮に部屋に足を踏み込んできたかもしれないという可能性を考えることも嫌だし、もし入
っ
てくるのが家族だとしても私はノ
ッ
クもせずに部屋に入られると何だか怖くな
っ
てしまうのよ、まあお兄ち
ゃ
んだからいいけど、もう一回言うね、お兄ち
ゃ
んだからいいけど」という事を妹はとても眠そうなトー
ンで言い、相も変わらず本に目を向け続けていた。しかし僕は、彼女が本の内容なんかま
っ
たく頭に入
っ
ていないだろう
っ
てことがば
っ
ちしわかるんだな。なにせ彼女は最高にご機嫌に不機嫌なんだ。学校やママやパパに対するストレスやら不満やらが心の内に積もり積も
っ
て本を読むことにも集中できないくらいに神経がクタクタにな
っ
ていて過敏にな
っ
ていてもう起きていることすら嫌なのに色々な事を考えすぎてしま
っ
て眠る事が出来ずに朝まで起き続けていたんだろうということがわかるんだ。僕にはそれがよく分かる。なにせ彼女のお兄ち
ゃ
んであり、彼女とは似たような性格だからね。僕は彼女の傍に向かい、それからゆ
っ
くりとカー
ペ
ッ
トの上に腰を下ろし、横たわる美しい妹の顔を見つめながら言
っ
た。「ママがいつものごとくお前が部屋から出てこない
っ
て嘆いていたよ。シリアスなコメデ
ィ
ー
ドラマの主演女優みたいにさ」。「そう」と妹は短く言
っ
てから、本をソフ
ァ
に置いて、起き上が
っ
た。そのままソフ
ァ
にもたれかかる。「お兄ち
ゃ
んの冗談とか言い回し
っ
てクソつまんないよね」。妹はうんざりした表情で僕を見ながら言
っ
た。
「それについてはこの上なく同意せざるを得ないよ。やー
やー
、そうだよね、うん。よく言われる。でもさ、僕は思うんだけれど、平凡で面白いことを言い続ける奴よりも、つまんなくてもいいからとび
っ
きり意味わかんない言葉を言い続けて、キチガイぶりながら人の心に奇妙な爪痕を残し続ける奴が僕は好きなんだよ。そして僕はそう奴を目指しているんだな。僕が大好きな俳優にエドガー
・ロビンソン
っ
てやつがいるんだけれど、そいつはマイナー
な俳優だし一昨年に死んじま
っ
たけれどね、そいつが言
っ