第24回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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明日、広島で起こる出来事
投稿時刻 : 2014.12.13 22:48 最終更新 : 2014.12.14 05:17
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明日、広島で起こる出来事
なんじや・それ太郎


 明日は総選挙だ。俺は子供の頃から、「選挙で自分の名前を書いてみたい」という願望があた。実際、二十歳になて初の選挙で俺は投票用紙に自分の名前を書いたのだた。その年は統一地方選があり、広島市長、広島市議会、広島県知事、広島県議会の選挙が行われたばかりでなく、夏には衆参同日選挙もあた。俺はもちろん、全部の選挙で自分の名を書くつもりだた。たけど、問題があた。その時の参議院選挙から、全国区がなくなて比例制が導入され、政党名を書かなければならなくなたのだ。今はなくなた制度だが、その時の俺は自分の所属政党として、悩んだあげく「ジパン右翼党」と書いた。急ごしらえにしては、素敵な名前である。
 月日は流れた。今度の総選挙は、私の娘の選挙デビの日である。一昨日、家族でささやかな誕生パーを開いた時、「二十歳になていきなり選挙なんて恵まれてるわ」とケーキのキンドルの火を吹き消した娘は感慨深げにつぶやいたのである。
「しかも、自分の父親に投票できるなんて」
「俺には投票しなくていい」
 俺は選挙で自分の名前を書くだけには飽きたらなくなり、次は「自分に投票する姿をニス番組で流してもらうこと」に憧れを抱くようになり、はたまた「池上彰の特番でボケ倒し激しい突込みを入れられること」を夢見るようになていた。だから、今度の選挙には立候補してみた。なあに、うちの選挙区は保守政党の地盤が強く、しかも選出代議士は派閥の長であり、現役の外務大臣である。俺が立候補したところで無風区であることに変わりはない。
「でも私、お父さんが当選した夢を見たの。予知夢ていうのかしら。こういうのて当たるのよ」
「いたい何があたら、俺が当選するんだね?」
「さあね、ふふふ」
 選挙の前の晩、twitterを眺めていたら、なぜか私の名前が「HOTワード」に上がていた。その隣には「比古もも香」。もも香? きと偶然だろうが、うちの娘と同じ名前である。なぜ、俺がtwitterで話題に? しかも、娘の名前まで……
「成果は上々よ。お父さん」
 俺の部屋をいきなり訪ねてきた娘は自慢気に言う。
「何かあたのか」
「自分で言うのも何だけど、私て伝説のブロガー・もも香、だから。さきようやく自分が比古彦太郎の娘であることをブログに書いたの。当選するかもよ、お父さん」
「気持ちだけは感謝しておくよ。ありがとう、桃香」
 そういえば、そんなハンドルネームの伝説ブロガーの名前を聞いたことがある。原発やカープの裏事情に詳しく、政治的なネタもそこそこ好評らしい。惜しむらくは、父親である俺が未読であるという点だ。

 翌日、それまでとは打て変わて俺に対するマスコミの取材が増えた。娘も引込み思案な妻に代わて、俺にまとわりついてくる。もちろん、その様子はニスで流れ、テレビ映りがいいのか、娘はたちまちネト上のカリスマからお茶の間のアイドルとなていた。
 夜になた。八時の開票開始と当時に、うちの選挙区の現役代議士の投票が決また。負けた。当然であろう。相手が強すぎる。しかし、娘が応援してくれたこともあり、俺はちと嬉しかた。今回ばかりは自分の票だけではなくて、娘の票も入たと思うからだ。たた二票では選挙管理委員の人も、票を束ねるのに大変だろうが、俺には十分だた。
 テレビを離れ、俺はウイスキーを片手に部屋でくつろいでいた。もう選挙に出るのは、これで最後にしてもいいだろう、などと考えながら。
 そこへ娘が入てきた。「お父さん、おめでとう」と言いながら、俺に花束を手渡そうとする。
「何、どうした?」
「中国ブロクでジパン右翼党の議席が決またの」
 俺は思い出した。アメリカの大統領選でキング牧師はケネデの応援をしなかたが、同姓同名の父親が支援したおかげで、ケネデは接戦を制することができたことを。
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