嘘
この際だから正直に言おう。私は嘘つきだ。それも世界一の嘘つきだ。
三年前、遊園地でジ
ェットコースターに乗ったとき、君は僕に訊いたよね。
「怖いの?」
僕は答えたさ。
「ちっとも」
でも本当は怖かったんだ。怖くて涙が出そうだったよ。
去年の夏、一緒にお祭りに出かけたよね。綿菓子を買ってあげると、君は僕に訊いたんだ。
「パパも食べる?」
「いや、いらない」
嘘だったんだ。本当はとても美味しそうで、喉から手が出そうだった。でも父親として、大人らしいところを見せたかったんだよ。
いま君は、目の前の冷たい木の箱の中で、寝息も立てずに眠っている。とても幸せそうな穏やかな寝顔だ。和尚の唱えるお経の単調なりズムが、まるで異世界から漏れ出てくる壊れた楽器の音のように遠くで聞こえる。
いったいいつからだろう……平気で嘘をつくようになったのは。自分の気持ちを曝けることを恥じるようになったのは。でもその理由(わけ)はよくわかっている。怖かったんだ。壊れるのが。幸せな時間が、平和な世界が。楽しい、とか、嬉しい、とか、言葉にしたとたんに消えてしまいそうで、とても怖かったんだ。
でも今日だけは本当のことを言うよ。わずか八年の短い時間だったけど、君と一緒に過ごせて幸せだったよ。笑った顔も、怒った顔も、泣いた顔も、すべてがこの上なく美しかった。
だから、暗い闇の中で君をひとりぼっちになんてさせない。僕ももうすぐ行くよ。そして今度こそ言うんだ。本当のことを。
もう二度と嘘なんてつかない。