第25回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動3周年記念〉
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投稿時刻 : 2015.02.15 00:03 最終更新 : 2015.02.15 01:14
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更新履歴
- 2015/02/15 01:14:32
- 2015/02/15 00:03:50
如月恭介


 この際だから正直に言おう。私は嘘つきだ。それも世界一の嘘つきだ。
 三年前、遊園地でジトコースターに乗たとき、君は僕に訊いたよね。
「怖いの?」
 僕は答えたさ。
「ちとも」
 でも本当は怖かたんだ。怖くて涙が出そうだたよ。
 去年の夏、一緒にお祭りに出かけたよね。綿菓子を買てあげると、君は僕に訊いたんだ。
「パパも食べる?」
「いや、いらない」
 嘘だたんだ。本当はとても美味しそうで、喉から手が出そうだた。でも父親として、大人らしいところを見せたかたんだよ。

 いま君は、目の前の冷たい木の箱の中で、寝息も立てずに眠ている。とても幸せそうな穏やかな寝顔だ。和尚の唱えるお経の単調なりズムが、まるで異世界から漏れ出てくる壊れた楽器の音のように遠くで聞こえる。

 いたいいつからだろう……平気で嘘をつくようになたのは。自分の気持ちを曝けることを恥じるようになたのは。でもその理由(わけ)はよくわかている。怖かたんだ。壊れるのが。幸せな時間が、平和な世界が。楽しい、とか、嬉しい、とか、言葉にしたとたんに消えてしまいそうで、とても怖かたんだ。

 でも今日だけは本当のことを言うよ。わずか八年の短い時間だたけど、君と一緒に過ごせて幸せだたよ。笑た顔も、怒た顔も、泣いた顔も、すべてがこの上なく美しかた。
 だから、暗い闇の中で君をひとりぼちになんてさせない。僕ももうすぐ行くよ。そして今度こそ言うんだ。本当のことを。

 もう二度と嘘なんてつかない。
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