第25回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動3周年記念〉
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告白
投稿時刻 : 2015.02.14 23:51
字数 : 749
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告白
ドーナツ


 ぼくは、ずと彼女が好きだた。しかし、それを形にしたことはない。
 人は他人とコミニケーンをとる時、何がしかの道具が必要だ。それは言葉でもいいし、ほのめかしの仕草やちとした贈り物でも良かたと思う。

 あれはとても寒い日で窓の外をちらつき始めた霙にぼくは眉をひそめていた。彼女は何人かの女子と教室の一角で戯れている。美しい彼女は、異性から鑑賞される存在だた。だから、ぼくが彼女に見惚れていたとしても、その他大勢の中にマスキングできる。学内の男子生徒の過半数が、彼女を裸にし、想像上の恋人として扱ていた。思想の自由に万歳である。
「あいつて処女かな?」
 椅子を少し引き、牧田がぼくのほうへ振り返ていた。彼女を指さしている。
……さあ」
「兄貴が言てたんだけど、ああいう美人にかぎて経験なかたりするらしい。もう男いるだろうと思うから誰も誘てなかたりしてさ」
 または、相手にされない可能性が大だからだ。どんな男でもプライドがある。わざわざ恥をかきたくなかた。
「だとしたら、チンスだよな?」
「チンス?」
 ぼくは牧田の顔に目をやる。
「誰でもいいから付き合いたいと思てるかもしれないだろ? 普通に捨てたいはずだぜ、処女」
 そう上手くいくだろうか。性欲どころか血肉と感じられない彼女の顔をぼくは眺めた。

 不意の落下音に驚き、窓を見返る。校舎の突起部分に溜また雪が地面に滑り落ちていた。安堵と腹立ちがないまぜになる。
 教室へ目を戻すと彼女がぼくを見ていた。その眼差しは何も語てはいない。ぼくを机や黒板と同一視していた。彼女は、ぼくに関心も感情も抱いていないのである。
 彼女が目を逸らした途端、体が楽になた。
「でさ、俺。誘てみようかと思てるわけ」
 ぼくは牧田に頷く。とにかくも、ぼくの恋は終わた。
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