てきすとぽい
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第25回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動3周年記念〉
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墓場まで
(
茶屋
)
投稿時刻 : 2015.02.14 23:36
字数 : 1373
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墓場まで
茶屋
墓場まで
「では、あなたの告白を聞きまし
ょ
う」
私は書類に目を通しながら、目の前の女性に目を向ける。
パー
テ
ィ
シ
ョ
ンで区切られた一角に私と女性はいる。私はネクタイにワイシ
ャ
ツ。彼女は質素なワンピー
スだ。
ここは死後の世界の一歩手前、色々と行政措置を執り行う役場の一角だ。
人は死後の世界に行く前に現世の行い、秘密を告白しなければならない。
その告白を聞くのがこの部署なのである。
私と同じような担当官がこのいくつも並ぶパー
テ
ィ
シ
ョ
ンの中で死者たちの告白を聞く。
これが我々の日常業務だ。
「私は良き妻であり、良き母であるつもりでした」
私は資料に目を通す。目の前の女性はまだ若い。夫と二人の娘。死ぬには早い。さぞ悔いの残ることだろう。
「ですが私は
……
」
そこで女性の言葉は詰まる。
「たくさん人を殺してきたんです」
その言葉に思わず目をみはる。虫も殺さぬような、そんな言葉が当てはまりそうな容姿の女性だ。
「それは比喩的な意味でし
ょ
うか?」
思わず聞いた。
「いえ、文字通りです。趣味、癖、嗜好なんて言えばいいのかわからなか
っ
たんですけど、人を殺さずにいられなか
っ
たんです」
再び資料に目を通す。生前、彼女が警察に捕ま
っ
たり、捜査線上に上が
っ
たことはない。
とても信じられなか
っ
た。
「はじめは誰にも探されないような、ホー
ムレスでした。簡単でした。ボランテ
ィ
アを称して優しく接していれば相手の警戒心も解けましたから。夫とのことで悩みがある素振りをして誘いをかければ、相手も同情と下心から寄
っ
てきてくれましたから。それに弱
っ
ている相手だ
っ
たので、殺すのも簡単でした。死体は山に埋めました」
「なるほど
……
」
「でもスリルが足りなか
っ
たのか、今度は出会い系に手を出しました。これまた簡単にひ
っ
かるものです。体を許せば、相手も大した警戒もしません。あ、もしかしたら娘たちは夫の子ではなか
っ
たかもしれません。もちろん夫はそんなこと微塵も疑いませんでしたけど。今度は死体も慎重に処理しました。山に埋めたのは一緒ですけど、今度は遺留品も見つからないようにし
っ
かりと処理しました」
最初のイメー
ジとはまるで違う。
楽しそうに話す女性の微笑みが不気味なものに感じられた。
「あとは色々ですね。色々殺しました。若い子も、男も女も。たくさん殺しました。殺すときはほんとうに楽しか
っ
た。本当に楽しいゲー
ムでした」
「何人ぐらいでし
ょ
うか? 殺したのは」
「覚えていません。でも多分、二十人は超えていたと思います」
「あなたは快楽殺人鬼だ
っ
た
……
」
「ええ、多分そうなのでし
ょ
うね」
そこで、側においていた携帯端末が規定の数値に達したことを示した。
告白指数。
これで女の秘密は既定以上告白されたのだ。
「なるほど、もう結構です」
「はあ、どうも」
「後悔はないのですか」
「娘たちや夫は心配です」
「いえ、その人殺しの方で」
「全く」
そう言
っ
て女は再び微笑んだ。不気味な笑みだ
っ
た。
女の告白は想像以上だ
っ
た。
だが、ひとつ、私には気になることがあ
っ
た。
墓場には一つだけ秘密を持
っ
て行くことができる。
だが、彼女は殺人を告白した。それを墓場まで持
っ
て行こうとはしなか
っ
た。
果たして、彼女が墓場まで持
っ
ていく秘密とは何なのであろうか。
殺人以上の秘密が、彼女にはあ
っ
たのだろうか。
だが、それを知るすべはもはやない。彼女の秘密は彼女とともに墓場に入るのだ。
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