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- 2015/06/20 23:46:11
- 2015/06/20 23:45:00

『第三地区食品工場』
そう書かれたプレートを脇目に、オレは壊れた扉をバールで押し開いた。
「やっぱりバールのようなものは最強だな」
隣で眺めるばかりの弟が、軽口をたたく。
「ようなもの、なんてアイデンティティを否定するようなこと言うなよ。本物のバールなんだからよ」
そういいながら、俺達は中へと進んでいった。
水を捜さなければならない。
人類に見捨てられたこの島で。
超巨大隕石落下。
30年前のあの日、人類は生息域を大幅に縮めざるを得なかった。
この島も、隕石落下の衝撃の津波に飲まれて、人類は撤退してしまった地だ。
俺達兄弟は、捨てられた各土地が、復興可能かどうかの調査をするために、各地を回っていたが、エンジントラブルで飛行機が飛べなくなった。
幸い食べ物はいくつか見つかり、キャンプにいくらか回収できている。
しかし水がない。海に回収に行くことも難しい
俺たちの飛行機が不時着したこの島は、全方位が断崖絶壁で海に下りるのが難しい島だったのだ。
そこで島の中で、水がありそうな場所として、この工場跡に目星をつけてきたのだ。
この島は津波のしばらく後、とある炭鉱跡から毒ガスが広がったため、動物達がいない。
そのため、この食品工場跡も荒らされてはいないものの、当然ながら荒れ果てていた。
「うわぁ、やっぱ当時は完全に全自動だったんだな」
工場内の動かなくなった設備を眺めて、落ちているリモコンらしきものを蹴っ飛ばしつつ弟は嘆息した。
隕石落下前の人類の文明レベルは今より高く、工場といえば高性能なロボット達が全自動で、全ての工程を進めていた。
津波に飲まれて、泥まみれではあるが、この工場にもその痕跡が見て取れる。
「そうだな。ま、あんまりはしゃいで体力を消耗するなよ。さて、水を探すぞ」
オレと弟は二手に分かれて探し始めた。
「なぁ兄ちゃん、こんな泥まみれの所で見つかった水なんて、のめるのかそもそも？」
「不純物が入っていたとしても、煮沸で水分だけを回収することが出来る。水分さえ残っていればな」
「そっか……うん？　あ」
弟が何か見つけたような声を上げたので、オレは咄嗟に水が見つかったのかと期待して振り返ったが、弟が拾い上げていたのは、何かの注意書きの札だった。
『水濡れ厳禁』と書かれている。
「字は今と変わらなかったんだな」
「そうだな」
「水濡れ厳禁……って、このロボットのものかな？」
弟が、食品を加工して出荷するためのロボットを指差したが、違うな、とオレはすぐに思った。
食品売り場へ出荷前のパッケージされかけの、おそらくはベーコンだったであろう干からびた茶色の塊は、泥と一緒にラップがかけられていた。
おそらくここのロボットは全て防水加工が施されている。
津波で水没した中で、淡々とロボットたちが詰め込み作業をしたせいで、泥まみれで食べられたものではない食べ物が大量に作られたのだ。電力の供給が途絶える瞬間まで。
「いや、こいつのだろ？」
オレは、積み上げられた出荷前のダンボール類のうちのひとつに、『砂糖』と書かれたものがあるのを弟に指し示した。
砂糖は水分をすぐに吸ってしまうから、製造工程でも水分は厳禁だったはずだ。
「あ、なるほど。ロボットへの注意、ってわけじゃないだろうから、人間もある程度は近づいてこれたのかな？」
「多分チェック係とかはいたんだろうな」
無論、今はいるはずもないが。
在りし日の向上の姿を思い浮かべながら、俺達はしばらく探し回った後、こう結論付けざるを得なかった。
「駄目だ、ないな」
ペットボトルの生産ラインらしきものは見当たらなかった。
おそらくこの工場では、飲み物類の生産はしていなかったのだ。
「でも兄ちゃん……もうちょっと」
「もう諦めて帰ろう。体力を無駄に消費するわけにはいかない」
「わかった」
弟はしぶしぶ俺の言葉に従い入ってきた場所へ、一緒に戻る足を進めた。
通りすがりながら、生産ラインから外へ出荷される、その直前のダンボール達を軽く叩いて、弟は笑った。
「出荷直前までは行けてたのに、こいつらも惜しかったな。いやまぁこの後は食べられるだけなんだけどさ」
オレはそれらのダンボールの最後の点検として、もう一度ペットボトル類がないかを名前から確認しようとした。
「水濡れ厳禁……」
……ふとひらめくものがあり、砂糖のダンボールの山によじのぼってひとつをこじ開けた。
果たして、砂糖のダンボールを開いた先には、防水用ビニールのパッケージに守られて蒸発することのなかった、砂糖と泥水の混合液がたっぷりと残っていたのだった。

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