てきすとぽい
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第27回 てきすとぽい杯
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おしまいの雨
(
小伏史央
)
投稿時刻 : 2015.06.20 23:35
最終更新 : 2015.06.20 23:38
字数 : 1529
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2015/06/20 23:38:55
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2015/06/20 23:35:10
おしまいの雨
小伏史央
授業は退屈だ。窓の外を眺めると、黄土色の空が広が
っ
ていた。退屈な空。
「ほらそこ、よそ見しない」先生に注意される。「はー
い」教卓のほうを向くとでぶ
っ
ち
ょ
教師が黒板にカリカリと文字を削り込んでいた。つまらない授業。みんな、退屈なことば
っ
かりだ。
授業が終わり、下校時間。しばらく椅子に座
っ
たまま、窓の外を見た。グラウンドで部活動の連中がボー
ルを必死に蹴
っ
ている。どうしてそんなに熱中できるのだろう。つまらないことばかりなのに。こんなに、つまらない世界。
黄土色の空を見上げる。いつもとなんら変わりのない空。退屈な空。あの空がある限り、私は部活はできないだろうな
っ
て思
っ
た。どうして私は生きているんだろう。どうして私は学校に来ているんだろう。つまらない日々が、ただ無為に続いていく。
「
――
ち
ゃ
ん!」
声をかけられ、窓から視線を移した。親友が立
っ
ていた。「なにしてるの? 帰ろうよ」「あれ、部活は?」「今日うちのとこは休みなんだよー
」
一緒に学校を出て、下校路を歩いた。ざらざらとした地面が靴の裏を嘗める。なんだか歩くのも退屈だ
っ
た。親友が楽しそうに笑う。「帰
っ
たらなにするの?」「特になにもしないかな。なにしてもつまらないし」「えー
?」無為な会話を、無為に続けて。それになんの意味があるというのだろう。また空を仰ぐ。あの空さえなければ。あの薄汚い空が悪いんだ。
「空、好きだよね」親友にそう聞かれる。「え
っ
そんなことないよ」「だ
っ
ていつも空見てるじ
ゃ
ん」「それは別に
……
」私は、空が好きなのだろうか。
違う。そんなはずない。生まれたときから、ず
っ
と変わることなく、私を閉じ込めたあの空。あんなものがある限り楽しい人生なんてや
っ
てこないんだ。
「それにしても、不思議だよね」「なにが?」「今日授業で先生が言
っ
てたじ
ゃ
ん。彗星が近づいてるんだ
っ
て」「そうなの? 授業聞いてなか
っ
た」「もう、や
っ
ぱり空好きなんじ
ゃ
ん。授業も聞かずに空ばかり見てさあ」
親友と別れて、そのまま家に帰
っ
た。さ
っ
きまでどんな会話をしていたのかも忘れてしま
っ
た。「おかえりなさい」「ただいま」お母さんがなにか言いたげにこちらを見てくる。「なに?」「いや、この前の話だけどね。もういい加減進路は決ま
っ
たの?」「まだ」「あんたねえ、あんたの人生だからち
ゃ
んと考えないと。もう時間もないのにそんな調子じ
ゃ
」「うるさいな
ぁ
!」急にイライラしてきて、自分の部屋に駆け込んだ。ドアを閉める。
こんな退屈な世の中で、進路を決めてなんの意味があるんだ。みんな退屈なのが悪いんだ。みんなつまらないのが悪いんだ。あの黄土色の空が悪いんだ。
「みんな消えち
ゃ
えばいいんだ」
部屋の中が青白い光で満たされた。窓の外を見ると、白い光の線が直線を描いて流れていた。流れ星だ。窓に駆け寄る。空を見て絶句した。
空が溶けていた。黄土色の空にぽ
っ
かりと穴が空いて、それが徐々に徐々に広が
っ
ていく。そこに青白い光と白い塊が溜ま
っ
ていた。そして今まで感じたこともない寒気が私を襲
っ
た。さ
っ
きとは違う細かい透明の線が、何本も何本も、空から降
っ
てきた。お母さんが私の名前を呼んでいる。急いで部屋を出てお母さんのところへ駆け戻
っ
た。そのとき屋根の崩れる音がした。轟音が耳を封じ込めた。お母さんの声はわからなくな
っ
た。私は家を出た。
黄土色の空が溶けている。黄土色の家が溶けている。黄土色の道が溶けている。水濡れ厳禁の世界が。得体も知れない水滴を浴びて洗い流されていく。
「ごめんなさい」空から墜ちてきた水滴が目元を垂れ落ちていく。「ごめんなさい。ごめんなさい」なにを謝
っ
ているのかも分からなか
っ
た。
私は溶けてゆきながら、ただ最後までなにかに向けて謝り続けた。
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