小説、それは革命であーる 第1回犬吠埼一介杯
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投稿時刻 : 2015.08.24 17:47 最終更新 : 2015.09.13 13:12
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- 2015/09/13 13:12:33
- 2015/08/24 17:47:39
労働者の諦め
クロノ@ワサラー団@/次イベ10月


あの日は珍しくも何ともない、いつも通りの日だた。
 雪が降りしきる中、私は黙々と作業を続けた。工場長の話によると、今日は低気圧とやらが上にいるため寒い雪の日になるだろうとのことだたが、まさか本当に降るとは。雪は嫌いだから、正直うれしくない。
 職場の仲間は何をしているのか、ちらりと作業をしつつ眼球だけを動かして見る。時折外を見ながらも、順調に作業を進めているようだ。今日も問題なく済みそうだ。
 と蒸気機関で動くこの裁縫機械を、問題なく動かすのが私の仕事だ。それ以外は考えなくていいと工場長に言われた。私も考えるのが面倒になている。オーダーにさえ応じておけば、殺される危険性はない。必要最低限の衣食住は工場長によて用意される。今日みたいな雪の日はなおさらおとなしくしておいた方が身のためだ。
 だが、それを理解しないバカがたまにいる。何を思たかこの工場から逃げ出そうとするのだ。そんなバカの末路は皆同じだ。捕まて、殺される。その後の肉塊の処理を担当する業者もあるらしいが、出来る事なら一生お目にかかりたくない。
 私を含めたベテランの労働者──世間一般にはプロレタリアと呼ばれているらしい。同期の男に教えてもらた。──ならば、そのことはよく知ている。
 命あての物種。この言葉が良く似合う。死んでも保険金は降りないし、そもそも保険金をかけれるのは金持ちだけだから、誰もそんなことはしなかた。
 しかしあの日は、いつもとは少し違た。その日の朝のことだ。なにやら工場長がウキウキとしていた朝礼だた。話したことから察するに、いい取引相手でも見つかたのだろう。朝礼が終わると、「ちと出かけてくる。サボるなよお前ら!サボたらぶん殴るぞ!」と言い残して工場長が出て行てしまたのだ。私たちは集まて、臨時の責任者を決めることになた。多数決の結果、選ばれたのは私だた。特に不服はなかたからそのまま受け入れた。
 「全員、怪我とかに注意して作業をするように。」簡単に言て、私は作業へ戻た。
 直後、引き止められる。何事かと思て戻ると、なにやら会議をしているようだた。
「なあ、工場長今日いないぜ。チンスじないか?」
ヒソヒソと男が話した。
「チンスて、なんのチンスよ。」
私は聞き返した。分かていたが、あえて聞き返した。
「なんのて、そりお前、脱走だよ。ここまでのチンスはねえぞ。」
ヒソヒソと話していた男がさも当たり前のように言う。
……聴いておこうかしら。脱走計画の賛同者は挙手。」
バババと手が挙がる。その数はかなり多く、パと見、挙げていないのは私と、プロレタリアという言葉を教えてくれた同期の男のふたりだけだた。
「あれ、あんたらは来ないのか?」
女が尋ねた。
「私は行かないよ。外出たくないし、今の暮らしで十分。あんたは?」
クリと答えて、同期の男に問を投げる。
「俺は此処の暮らしもまあまあ気に入ててね。出る理由はないよ。それに、工場長がなんであんなに露骨に浮き足立ていたのか気になてしうがない。」
同期の男は、なんでもないことかのように答えた。良くも悪くもこいつはアホだと思う。この状況で自らの知的好奇心を優先するとは。初めて会話した時から薄々感づいてはいたが、こいつは筋金入りのアホだ。
「あ……あいいよ。俺たちだけで脱出する。俺たちはこの監獄から抜け出して、楽園への切符を手にするんだ。じあな、もう会うこともないだろう。」
そういうと、その男が号令をかけ、一団はいなくなた。私は、ゾロゾロと出ていく労働者を尻目に作業を再開した。人手が少ないが、納品量は減らないし、納期は待てくれないのだ、急がなき。そう考えて。
 その日の夕方である。工場長が帰てきた。労働者が脱走したと知て激怒した。そこまではいい。だが気になたのは、その次の日の朝であた。
「よーし、お前ら、今日からココがお前らの職場だ。しかり働けよ!おい、ちとこち来い!」
「なんですか工場長……すぐ仕事に戻りたいんですけど。」
「まあ待て、そう言うな……この二人が、ここに来る前に言たうちの稼ぎがしらの二人だ!仕事について分からないことがあたらまずこいつらに聞けよ!」
………工場長、なんですかこれ。」
「昨日大幅な欠員が出ちまただろ?だから補給したんだよ。」
「工場長、昨日何があたんです?ウキウキでしたけど。」
「お、分かる?分かう?流石だねえ!」
………バレバレだたのに隠せてると思ていたのだろうか。
「うちの工場がな、今年のベストフクトリーに選ばれることになた!」
 ベストフクトリー。一年で最も多く高品質のものを生産し、期限通りに納品した工場に送られる政府から贈られる賞だ。これに選ばれると、一年間政府から資本援助がされ、就職希望社が増えることになる。いまある工場で、二個以上工場ラインを持てる工場は、必ずといていいほどこれに選ばれている。
 まさかそれにウチが選ばれるとは。
「なるほど、大体の事情は察しました。さしずめ、今後は後輩の育成でしうか?」
 同期の男が尋ねた。私もそう思ていた。流石に即戦力はいないだろう。
「話が早くて助かるよ!それじ、早速頼むよ!私がいないあいだは君が指揮をとてくれ!」
ポン、と私の肩を叩く。それに対して私ははなにも答えなかた。
「主任、どうかしましたか?主任?」
………、ごめんなさい。少しぼーとしてた……
「大丈夫ですか?しかりしてくださいよ、あなたはこの工場の稼ぎがしらなんですから……
「そうだたわね。……それじあ今日の仕事を早速開始するわ。怪我のないようにね。」
ハイ!!!と元気のいい返事が聞こえる。あれからだいぶ経て、新入りもだいぶ働けるようになた。私も負けてられないな。そう思い、私は仕事に入た。
 それから十年経たある日、工場長が死んだ。冬が終わり、春になろうかという頃だた。交通事故で死んだらしい。
 工場長を失た工場は閉鎖の運びとなり、私と同期の男は職を探し始めた。
 時代が流れ、昔よりかは就職は難しくなているご時世、早々見つかるまいと、私と同期の男は思ていた。
 だが予想に反して、再就職先はあさりと見つかた。どうやら工場長がことあるごとに私たち二人をほうぼうに自慢していたらしく、仕事を選ぶことさえできた。私と同期の男は、一緒の工場に就職した。
 なぜ一緒の工場なのか、休憩中に聞いてみた。するとそいつは、「お前は見ていて飽きないからな。」と、あさりと答えてきた。言及したくなたが、これ以上首を突込んでさらにめんどくさいヤツになても困るから、あそ、と返して、会話を終えた。
 そこでも私の評判は上々だた。すぐに個人生産量では工場内一番になた。私を雇た工場長もホクホクの笑顔だた。
 こんな笑顔をするヤツだ、私を手放しはしないだろう。資本家は金が大好きなようだからな。
 それから数月後、ふと窓を見上げてみた。あの日によく似た大雪の日だた。あの日のことが懐かしく思える。
 あの時脱走していれば、いたいどうなていただろう。死んでいたのだろうか。
 そんなことを考えながら、私は今日も黙々と作業を続ける。
 私のプロレタリアとしての生活は、まだまだ終わりそうに無かた。
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