てきすとぽい
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第28回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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光しかなく、それも消え
(
犬子蓮木
)
投稿時刻 : 2015.08.16 03:51
字数 : 1008
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光しかなく、それも消え
犬子蓮木
杖をついて歩いている。
この部屋は明るいな、と思
っ
た。
ゆ
っ
くりと進み、ソフ
ァ
に座
っ
た。息を軽く吐いて杖を床に置く。
テレビは高齢化社会に警鐘を鳴らしていた。多くの人が歳をとり、弱くな
っ
た社会ができる。その時代の弱者を誰が助けていくのかが問題だと。数十年後を想像した。僕もさらに弱くな
っ
て、どうや
っ
て生きているだろうか。今でも多くの人に助けてもらい生きている。未来では、僕を今、助けてくれる人間も助けが必要になる。
そんなときまで生きているのは甘えだろうか。
目が見えないのに。
「おまたせ」
入り口から紅茶の香り。ゆ
っ
くりと近づいてきて、テー
ブルに置かれたのがわか
っ
た。
僕は目が見えない。ま
っ
たく何もではないが、暗い明るいがわかる程度。
彼女が斜向かいに座
っ
た。息遣いが聞こえる。こんなものは誰のものだ
っ
て、人がいればいくらでも聞こえるのだけど、彼女のものだけはどうしても特別に聞こえてしまう。
色というものをどんなものだと思いますか? と聞かれたら、僕はこの、彼女のリズムを思い浮かべることだろう。
彼女は友人だ
っ
た。
出会
っ
たのは数年前。彼女が困
っ
ているところを僕が助けた。
紅茶に手を伸ばす。正面より少し横に手を出し、探るように近づけていく。指が温度を感じ、遅れてカ
ッ
プにふれる。熱さを確かめながらわずかに飲んだ。
「今日はなに?」彼女が言
っ
た。
「顔が見たいな
っ
て」
ジ
ョ
ー
クだ。どうもウケなか
っ
たらしい。ここにきた理由も検討がつかないようだ。
「ち
ょ
っ
と立
っ
てもら
っ
ていい?」
「なんなのもう」
彼女が立つ音。僕も杖を拾
っ
て立ち上がり、彼女に近づいた。
「ごめんね」
僕は彼女を抱きしめた。介助されるときと同じ人のぬくもりを感じる。彼女は僕のことをどう感じているだろう。冷たくないだろうか。
「え、ち
ょ
っ
と」
僕は男で、彼女は女性。でも、暴力で勝つことはできない。だから油断させてから、ナイフで刺した。
抱きしめていた手を離す。彼女が床に倒れた。ナイフを放る。
「な、んで
……
?」
「友達でし
ょ
?」
血の匂い。血の感触。途絶えた彼女の息遣い。返り血を浴びている。真
っ
赤かな。まあ捕ま
っ
ても構わない。
外に出た。
雨だ。
とても暗い。
歩こうとして、転んだ。杖を放してしま
っ
た。
探してみるが見つからない。
もういいや。
僕は立ち上が
っ
た。
雨がどんどん僕を撃ち抜いていく。
[※ここに挿絵]
僕は昔のように走りだした。
転んで、それでも立ち上が
っ
て走
っ
た。
怖いものは、もう死んだ。
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