第28回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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いくさば
茶屋
投稿時刻 : 2015.08.15 22:38
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いくさば
茶屋


 矢が降り注いでくる。
 雨のように、敵勢が間断なく矢を中天に向かて射掛けられ、頭上には矢の大小の黒い点が空をまばらに埋めている。
 それが次第に近づき、降てくるのである。
 風を切るような音がして、突き刺さる。
 矢は地面や木製の楯に突き刺さている。
 己の体を透け、後方に突き刺さるのである。
 透けている。
 戦場の中にあて、己は幽霊か、傍観者のようだ。
 大鎧の騎馬武者に、胴丸に頬あてをつけたような足軽。
 斃れるものもあれば、矢を撃ち落とす武者、竹楯の背後に隠れる足軽が目に映る。
 当世具足ではない。鉄砲もなく、大太刀を身につけているから、鎌倉か南北朝の時節ではないかと思う。
 そんな風にぼんやりと思う。
 次第に霧が立ち込め、前後左右もわからなくなるのだが、それでも軍場の武具のぶつかり合う音、屋の風を切る音が聞こえてくる音が聞こえてくる。
 音だけ、である。
 しばらく、あてどもなく歩いてみても、何も見えない。しかし、音をたどて歩いてみる内、音のする方角がわかるようになてきた。
 そして行き着いた先にあたもの。
 ラジオであた。
 戦場の音が流されていた。
 ラジオは、ひたすらに戦場の音を受信し、戦場の音を流し続けていた。
 ラジオという現物を見て、その戦は外国のものであたように感じられる。
 今ここにはすでに戦場は失せてしまているのだ。
 音は、無辜の民の絶叫や断末魔も流し始める。
 しかし、それでもどこか、他人ごとであるのだ。
 刃物も、毒ガスも、新型爆弾も。
 ラジオから流れてくる、どこか異国の、あるいは過去の、産物にすぎない。
 それでもなお、その音は、その武器は、その兵器は、私の体を貫き、どこかの敵かあるいは無差別に、命をとらえるべく突き進んでいく。
 人命を奪う兵器は、私の体を素通りしていく。そして運の悪い誰かに、命中する。
 戦争とは、そういうものかもしれない、と思う。
 人命は軽い。
 戦場で死ぬのは、ある意味四次元的確率の問題だ。
 武器は私の体を素通りしていくのである。いつか、私を物理的に貫く時があるのかもしれない。
 戦争に対する反省も、後悔も、懺悔も、対策も、それほど意味は無いのかもしれない。
 生きてるうちに当たるかも、当たらないかもしれない。
 そんなものだ。
 ふと、ラジオから聞こえる絶叫が己のもののような気がしてくる。
 もう、遅いのかもしれない。
 次々と矢が飛来し、爆弾が爆発する。
 炎に巻かれた人が目の前を行き去り、両腕のない人影が背後を過ぎる。
 
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