第29回 てきすとぽい杯
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そして誰もいなくなっちゃった
投稿時刻 : 2015.10.17 23:44
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そして誰もいなくなっちゃった
山田佳江


 夕方からは庭でバーベキをする予定だたのに、雨は止みそうもなかた。
「これじあ、買い出しにも行けないね」
「備蓄のワインもあるし、ハムとチーズとパンもあるよ。とりあえず飲むか」
「つまみだけでも先に買といて良かたなあ」
 私たちは、貸し別荘の埃ぽいソフに腰掛け、しぶしぶとワインのコルクを抜く。

「江口くんは?」
「車に荷物を取りに行くて言てたけど、もう戻てくるんじない。先に飲んじおう」
 ここに着いてから急に天候が変わたために、貸し別荘の空気の入れ替えすらもまだしていなかた。カビ臭い空気の中、安ぽい味のチーズをつまむ。江口くんはまだ戻て来ない。
「昔見たアニメでさあ、こんなシチエーンがあたよ」
 品川くんが急に語り出す。
「こんなシチエーて?」
「嵐で閉じ込められてて、一人ずつ殺されていくてやつ」
「ミステリー?」
「ううん、ギグアニメ」
「えー、なんだよそれ」
 日村くんが品川くんにツコミを入れる。
「マザーグースだけ、それの詩をまねした感じで、一人ずつ死んでいくんだよ」
「ああ、それアガサ・クリステないの?」
「違うよ、日本のアニメ」
「クリステの『そして誰もいなくなた』だろ。十人のインデアンて童謡に見立てた殺人」
「違うて、だれがコマドリを殺したとか、そういう詩」
「てゆうか、江口戻て来ないな。俺ちと車を見てくるよ」
 日村くんはそう言て席を立ち、傘立てから傘を取て玄関を出て行く。

 私と品川くんのふたりきりになてしまた。彼はシトパンツから伸びる私の生足をちらりと見てから目を逸らし、グラスに残たワインを一気に飲み干す
「それで、そのアニメはどうなるの?」
 特に聞きたかたわけでもないけれど、話題もないので尋ねてみる。
「孤島でクラスメイトや先生が次々に死んでいて、とうとう主人公はヒロインの死に水をとるんだ。そんで、犯人と一対一になるんだけど、実はその犯人が……
 品川くんの会話を妨害するように、大きな爆発音がする。
「どうしたんだろ、ちと待てて。見てくるから」
 品川くんが玄関から出て行く。

 部屋に一人取り残された私は、ちと失敗したかな、なんて思う。
「タイミングが早かたな。結末を聞いてからでも良かた」
 せめて、そのアニメのタイトルだけでも聞いておけば良かた。手がかりが少なすぎて、DVDを探すこともできない。
「もう聞けないんだよね。江口くんにも日村くんにも品川くんにも。でもいいか。どうせ見れないんだし」
 江口くんには車で待ててて言ておいたし、日村くんには抜け出すふりしてガレージで待ててて言ておいたし、品川くんは今頃がけ崩れに巻き込まれていることだろう。ガレージと車もろとも。

「ごめんね。だれも選べなかたんだよ。私もすぐに行くから、三人で仲良く待ててね」
 私は浴槽に湯をはる。そうして最後のワインを味わいながら、手首にナイフを入れた。
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