俺は妖刀「死に水」を携えて、秘密結社「マザーグース」が秘密裏に破壊工作を企てているという建物に乗り込んだ。
　だが、建物はもぬけの殻だった。
　というのは正確ではなく、一人のがたいのいい男が待ち受けていたのだ。
（くそ、上の連中は偽情報の見分けもつかないのか）
　待ち伏せだ。
　偽の情報を流して、宮内庁の童子を誘き出すマザーグースの作戦だったのだろう。
　俺は素早く祝詞をあげ、死に水に施した封印を解除し、抜刀した。
　男と間合いを詰めつつ、男の動きに合わせて構えを変える。
　男は何者か。
　能力者か。
　改造人間か。
　どちらにしろ一人での待ち伏せを任されるほどの力を持っているものに違いはない。
　ふと、何かが頬をかすめた。
　咄嗟に避けて態勢を崩すと、腹に衝撃を受け、思わず後退する。
　男は足を上げている。
（蹴られた？）
　だが、そんな間合いではないはずだ。
　しかし、確かに衝撃は受けた。間合いの広い蹴り技を使う能力者か？
　考えながらも、俺は一気に間合いを詰め、男に近づく。
　そうしながらも、男の微妙な動きの変化を見逃さなかった。
　二度目はない。
　避けると同時に、足を切る。手ごたえはあった。血も見えた。
　だが、今度は顔面に蹴りを入れられる。
　馬鹿なと思いながらも、体勢をあって直すと、男の両足は健在だった。
　だが、その一方で斬られた足も地面に転がっている。
「生足」
　そう、男は短く言った。
　それが、男の能力か。いくつもの足を、広い間合いの中で操ることができる。
　そんな能力だろう。
　男の余裕そうな顔にうんざりしながらも、俺はため息をつく。
　正直、この男と遊ぶ気はない。
　さっさと殺して帰ろう。
　俺は血の付いた死に水を軽く振って、血を払う。払われた血は男の頬についた。
　男は楽しむかのように、その血を舌で舐める。
「呼び水」
　そう言って刀の無い鞘の封印を解く。
　突然、男が苦しみだすと、その腹を突き破って、血でできた刀が飛び出してきた。
　男は大量の血をまき散らしながらもがき苦しみ、死んだ。
　血の刀は鞘に吸い込まれるように、収まり、やがて消えた。
「さて、上の連中に文句でも言わなきゃな」
　そう独り言をつぶやくと俺はその場を後にする。
　秘密結社マザーグース。
　彼らの目的や如何に。
　そしてそれと戦う宮内庁直轄の童子とは何者か。
　その戦いの果てに待ち受けるものとは。
　次回「メリーさんのひつじはどこへ消えた」
　こうご期待。

　続きません。

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