旅立つまで
私は目を覚ました。最初に気付いたのは、私を取り囲んでいる白い球体だ
った。十個あまりのそれがびっしりと集まって、私を上から覆いつくしていた。私は身を縮こませてじっとしていた。そうしていると私のぬくもりがそれらに伝わるような気がした。
やがて時が経つと、小さな音が頭上から響いた。様子を伺うと、球体の表面がひび割れ、そこから小さく尖ったものが飛び出していた。やがて十二の小さな生き物が中から出てきた。短く柔らかな毛に覆われた、私の水かきの上に乗りそうなほどの大きさの生き物だった。すぐに目を開け、甲高い声で鳴いた。その途端、私は強烈な空腹を覚えた。小さな生き物たちは私を促すように鳴くと、おぼつかない足取りで歩き出した。私はそれについていかなければいけない気がした。理由はわからないが、そう思った。
小さな生き物たちの、短すぎる足で移動できる場所は限られていた。平らで段差の少ない地面を、水の流れが速すぎない水面を、ゆっくりゆっくりと、しかし必死に進んでいく。計十三体の我々はすぐに食べられるものを食べつくし、その度に場所を変える。一日中その繰り返しだ。繰り返すうちに、小さな生き物は段々と大きくなり、毛が生え変わっていった。
時折、死角のない広い場所を通過すると、鳥や猫が私を狙って襲いかかってきた。ある日、一体の小さな生き物がそれから私を守ろうと戦った。そして私の代わりに攫われ二度と戻らなくなった。そのようなことが何度かあった。あるときは、段差を登れずに集団から離れる一体があった。それきりそれとは二度と会っていない。あるときは何の前触れもなく、息をしなくなっている者もあった。何度突いても目を覚まさなかった。そんなことが何度かあるうちに、小さな生き物はいつの間にか三体になっていた。
随分と大きくなった三体は、羽根の形もだいぶん私と同じになった。いつものように、水の上でぼんやりしていた私は、彼らの完成した翼がはためき、水面に波紋を作るのを見て、もう、これからは彼らにはついては行けないような気がした。理由はわからないが、そう思った。その途端、私の胸の内を肯定するかのように、大きく、大人の声で鳴いて、三羽は空へ羽ばたいていった。小さくなっていく姿を私はいつまでもいつまでも見ていた。
私は目を覚ました。不思議な夢を見ていた。今日から子どもたちは手を離れ私はひとりだ。暫く会っていない夫でも探しに行こうか。