第34回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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死んだと思った。
(仮)
投稿時刻 : 2016.08.21 03:31 最終更新 : 2016.08.21 03:50
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- 2016/08/21 03:50:03
- 2016/08/21 03:31:11
死んだと思った。
(仮)


 死んだと思た。
 あのとき、私はたしかに死を覚悟して、それを受け入れたはずだ。
 苦しそうに喘ぐ弟をそと抱き寄せて、首筋に突き刺さる犬歯の冷たい感触と、そこから溢れ出す血の温かさを自覚しながら。
 薄れゆく意識の中、弟が「ごめんね」と囁いたような気がした。そうして眠りに落ちるような微睡の中、ああ、死ぬて想像していたよりも怖いものなんじないんだな、こんなに静かなものなんだな、なんて考えながら、私は意識を閉ざした。
 目を覚ましたとき、まず全身が何かに縛られているような感覚に私は戸惑た。それが、筋肉が硬直しているからだと気がづき、無理やりに身体を起こそうと必死になているうちに、頬を張られたようにはと我に帰た。
 意識がずと鮮明だ。
 死んだ弟。血を求めて街を徘徊する死んだ人間たち。
 それらを初めて目にしたとき、私は彼らには意識などないものだとばかり思ていた。だから、弟に首を差し出したとき私も彼らと同じようになるものだとばかり考え、そして死を受け入れたのだ。
 だけど、いざ彼らと同じモノになて目が覚めてみると、死ぬ前とほとんど変わらぬ状態で、私は思考していた。
 これでは――生きているのと同じではないのか。
 心臓は確かに止まていた。身体は以前のような温かみを失い、ガラス製のグラスのように冷たい。喉はきつく絞めあげられたかのように硬直していて、喋ることはおろか呼吸することもままならなかた。かろうじて、低く濁た音を出すことができるだけだ。だけど死んだ肉体には呼吸など必要のないものだた。
 ようやく身体を動かせるようになたときには既に、私はひどい飢えに襲われていた。
 身体を不格好に引きずりながら家の外に出ると、私は生きた人間を探して辺りを見回した。
 いや、私だて、生きている。狂おしいほどの飢えに喘ぎながらも、ずと意識は鮮明としているのだ。いそ冷静ですらある。
 そして冷静だからこそ、飢えを癒すための人間を探さずにはいられないのだ。
 いそ意識がないほうがずと楽だた。
 彼らもきとそうなのだろう。
 死んだ身体を引きずて、生きているのと同じ意識を持ちながら私はのろのろと歩みはじめた。
 人間を探しながらふと想像する。
 生きた人間たちが私たちに喰いつくされたのなら、死んだ肉体の私たちが普通の状態に、そう生きているということになるのでは、と。
 弟はどこに行てしまたのだろう。
 
 私は、死んだと思ていた。
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