第34回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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彼女の弁当
投稿時刻 : 2016.08.20 20:40
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彼女の弁当
なんじや・それ太郎


「最近、何か変わたことあた?」と彼女が尋ねた。
「特にない」と僕は答える。僕の身の回りに変わたことなどない。
「そうなの……」と彼女は何だかつまらなそう。そこで僕は仕方なく、
「オリンピクのリレーで日本が銀メダルを取た。それから北海道の高校が甲子園の決勝に進出」などと、今日見たニスを矢継ぎ早に語てみた。
「ふーん」と彼女はスマホのような機械を使い「まずはオリンピクから」と検索を始めた。
 彼女は植民惑星に住んでおり、そこには十分な居住空間がないため、僕たちのいう「スポーツ競技」は存在しない。対戦ゲームのような娯楽はあるが、体調管理として義務的なトレーニングを行うだけである。だから、そもそもオリンピクが何なのか、なぜ僕たちがそれに夢中になるのか、最初から調べなければ話は進まないのであた。
「次は北海道ね。北・海・道……と。あ!」
「どうした?」
「この星の北海道て、私たちの九州の位置にある」
「どれどれ」
 彼女の手にあるスマホのような機械を覗き込むと、確かに地図のような画像が浮き出ており、北海道と九州が逆になていた。いや、日本列島か? 能登半島と房総半島の向きが逆だ。島根と鳥取も左右反対。それに島ではなくて、ただの囲いじないか。
「長老が昔の記憶を頼りに植民惑星の中にこんな形をした囲いを作たの。何か違てるわね。ねえ、九州て牛を飼える? それでいいのかしら……
「別にいいと思うけど」
 植民惑星で何が起ころうと、僕の知たことではない。そもそも植民惑星に移住した人間は、不老不死の技術で「死なない」選択をしたために地球を追われた連中ではないか。彼女だて自分のクローンに記憶を移植することで半永久的に生きる道を選んだはずが、何度目かの記憶移植で人格崩壊を起こしてしまい、それを治療するために勝手に地球に舞い降りて人生のやり直しを行ているのである。僕はそんなことも知らずに彼女を恋人にしてしまた。後悔していないと言えば嘘になる。普通の彼女が欲しい。
「そうだ、いいものがある!」彼女が意気揚々と僕に何やら四角い入れ物を見せた。「弁当よ、弁当。頑張て作たの」
 弁当? そいつは楽しみだ。
 早速、弁当箱を開けてみたのはいいのだが、真ん中に丸く白ご飯を残し、周囲を明太子で囲た弁当であた。言うなれば「白丸弁当」か。日の丸が何なのか、オリンピクで検索しても気づかなかたのだろうか。
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