てきすとぽい
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第35回 てきすとぽい杯
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It's Cool
(
住谷 ねこ
)
投稿時刻 : 2016.10.15 23:47
最終更新 : 2016.10.15 23:51
字数 : 1261
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2016/10/15 23:51:36
-
2016/10/15 23:47:32
It's Cool
住谷 ねこ
午後10時30分
音もなく携帯が鳴る。
振動もしないので普段は携帯にかか
っ
てきても
滅多なことでは出ない。
けれどここ最近
毎日、この時間になると
私は携帯を見える所に置いて
あるいは手に持
っ
て
じ
っ
とかか
っ
てくるのを待つ。
今日もき
っ
かり午後10時30分だ。
そして3回な
っ
たところで出る。
「もしもし、加藤さん?」
「はい」
「こんばんは」
「はい」
「加藤さんの冷蔵庫、何色?」
「白」
プ
ッ
ー
ー
ー
ー
ー
ー
ー
ー
ー
終わりだ。
これだけだ。
このおかしな電話のやり取りの始まりは1年前。
その頃、私はある通販会社のコー
ルセンター
で
アルバイトをしていた。
なんでもネ
ッ
トで買えるし
大抵のことはネ
ッ
トですますことができるが
相変わらずアナログに生きている人もたくさんいて
パソコンもスマホも持
っ
てない人は思うより多い。
持
っ
ていても使えない、使えるけど
本当に注文出来ているか不安など
結局、電話をかけてくる人がいるのだ。
そういう人達のために、電話で注文を受け
ネ
ッ
トで注文したものがち
ゃ
んとできているかの問い合わせに
答えるのが仕事だ
っ
た。
電話はひ
っ
きりなしになり
テレビで宣伝があ
っ
た直後は
パンク状態になることもある。
その膨大な入電の中には
本来の要件でないものも含まれる。
いわゆるイタズラ電話だ。
その中に、頻繁にかか
っ
てくる電話があり
そういう場合は、非通知が多いものなのに
し
っ
かり番号を出してかけてくるものがあ
っ
た。
「お電話ありがとうございます。○○会社 □□です」
と、社名と名前を言
っ
て出ると
「□□さん?」と、個人名で呼びかけてくる。
そして、その時の人気商品について尋ねて来る。
「□□さんも、マツサー
ジ機持
っ
てるの?」
カラー
のあるものであれば色も聞いてくる。
もちろんそういう業務に関係のない質問に応える必要はないので
お断りし、注文でないのであれば丁重に回線を切る。
あまりに何回もかけてくるのでたくさんいるオペレー
ター
でも
受けたことがない人がいなくなるほどであ
っ
た。
私ももちろん受けたのだが
どういうめぐり合わせか
何度もと
っ
てしまう事があ
っ
て、そのうち
同じ名前の人間がいても区別が付くほどにな
っ
てしま
っ
た。
流れは同じだが、彼は私だとわかると
必ず「冷蔵庫は何色」かと聞いた。
他の人には、相変わらずそのときどきの商品について聞いているようだ
っ
たので
明らかに区別していた。
いつも通りの対応で電話を切
っ
ていたが
ある時、ふと気の迷いか私は答えた。
「白です」
電話の向こうで息の詰まる感じが伝わ
っ
てきた。
そして私はこ
っ
そり自分の携帯番号を知らせた。
いらい、彼からのイタズラ電話はなくな
っ
た。
かわりに私の携帯が鳴るようにな
っ
たのだ。
それはコー
ルセンター
の仕事をやめても続き
今も続いているのだ。
他のことはい
っ
さい聞いたこともないので
何もわからないが、時間は午後10時30分
3回のみコー
ルして出ないとその日はもうかか
っ
てこない。
質問は「冷蔵庫の色」
答えは簡潔に「白」
それだけだ。
それだけだが、ず
っ
と守られている。
守られている限り多分ず
っ
と続く。
そして今、それはす
っ
かり私の一部にな
っ
てしま
っ
たのだ
っ
た。
了
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