【BNSK】2016年11月品評会 
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夏の残像
投稿時刻 : 2016.11.20 01:40 最終更新 : 2016.11.20 12:18
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更新履歴
- 2016/11/20 12:18:27
- 2016/11/20 02:05:35
- 2016/11/20 01:40:30
夏の残像
白取よしひと


- 回帰

 峠を抜けて木々がまばらになると左にアーチを描く海岸がひろがる。ゴトンゴトンと響く音とともに体が右にもていかれる。それでも車窓から目を離さぬ僕にギラギラと照らす強烈な日差しは、ダイヤを散りばめた海を見せてくれた。
 夏の日、何度となく乗たこの電車。ビーサンに海パンとTシツとその装いは同じだけれど、仲間たちはここにいない。

- ルーチン

 海岸通り駅に近づくとシターの閉められたラーメン屋「あき」が見えた。
日が陰るまで泳ぎ、真黒焦げになた僕らは決まてそこに寄た。数年の間に店仕舞いしてしまたのか。
時は追い縋る者を無情に取り残し過ぎ去て行く。

- 離散

 あの頃と同じ様に太陽に体を晒し横たわているけれども、周りの喧噪から僕は独り取り残され過去を辿る。
石で竈を設え流木を燃やす。トタンをのせてカラス貝やウニを焼いて食べた。流木が爆ぜた音を想い出す。あの音と共に僕らも爆ぜてしまたのか。

- 掛け違い

 物事にはきかけがあるのだろう。あの日、いつもの四人とここに来た。そしてもう一人。健一にできた彼女。僕らは海を楽しみいつも通りに「あき」に向かた。彼女は冷たいものが食べたいと言う。それにつられてフミレスに入た。
 いつもの事がいつもの事でなくなり、ひとつ掛け違えたボタンは魔術の様にそれからの僕らを縁遠くしていた。

- 残像

 閉まていると分かていても過去をトレースしながら「あき」への道を辿る。笑いながら歩く真黒な針金4本。海パンのままはしぐその残像に手をのばしてみても届くはずもない。僕は実は貴重だたあの夏の日々を何の執着も無くそして無頓着に放置してしまたのだ。

- あき

 想い出の店先で目が合たおばさんに導かれカウンターに座た。色褪せたのぼり。積み重ねられた段ボールの狭間でラーメンを待つ。
「ごめんね。お鍋で煮るから」そう言て懐かしのラーメンを出してくれた。
 特別に出してくれたラーメン。ネギだけしか具はないけれど、スープに散るほど細い麺とほんのりと魚だしが香るあさりとしたスープはあの頃と全く変わらない味だ。

- 手をのばせば

 思いがけず「あき」のラーメンを食べた僕は、あの日掛け違えたボタンを直せた感じがした。閉店しても変わらない味。そう見かけは変わた様に見えても本当は何も変わていないのかも知れない。
 僕はあの夏の残像に手をのばし、来年はみんなに声を掛けようと思た。
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