第36回 てきすとぽい杯〈紅白小説合戦・紅〉
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『めいろのくに』
投稿時刻 : 2016.12.10 23:21 最終更新 : 2016.12.10 23:45
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- 2016/12/10 23:45:04
- 2016/12/10 23:21:44
めいろのくに
゚.+° ゚+.゚ *+:。.。 。.


 その小さな王国が、いつうまれて、どれぐらいのあいだ栄えて、そして、いつからそうなてしまたのか、わかりません。
 ただ、誰かが気づいたときには、そこは、誰かの深い悲しみによて、ひどく秩序を失くしていました。
 例えば、北のある村では、大きいものと小さいものがさかさまになて、人々はかつての大木を踏みつけながら、巨大な蟻の足元を恐るおそる潜り抜けて歩いています。
 東のある村では、光があちらこちらに反射するようになたので、物が正しく見えず、みんなますぐに歩くことができません。
 南のある町では、音がいつまでもいつまでも鳴り響くようになて、正しいものが聞き取れなくなたので、みんなが耳を塞いでいます。
 それから、西の都の城下町では、時間がめちくちになていました。
 例えば、粉屋の息子のペーターは、今年、16歳で、朝、なんだか、哀しい気持ちになて目を覚まします。
 でも、次の瞬間には、彼は60歳のおじいさんになていて、辺りは深い夜の底です。もう、粉を引くお父さんもそれに寄り添うお母さんも死んでいて、彼には孫が3人います。皺だらけの自分の手をじと見つめていると、今度は3歳の赤ん坊になています。太陽の照りつける真夏の昼下がり、汗がたらりと背中を滴り落ちます。
 耳を澄ますと、お城から、とてもとても悲しそうな女の人の、泣き声が、微かに聞こえます。それは、秩序が崩壊し、何もかもが不確かなこの迷路の国の中で、すべてのの人が聞いている、唯一の確かなものです。
 ペーターが、この悲しそうな泣き声を、覚えていられるのは、彼がいつ気が付いても、必ず、窓から外を覗くと、向かいのパン屋のサリーと目が会うからです。
 3歳の時も、16歳の時も、60歳の時も、二人は目を合わせると、まるで導かれるように、お城の方へ視線を馳せます。そうして、哀しそうに泣いている女の人のことを考えます。きと、この女性の悲しみが止めば、この国の迷路も終わて、正しい時間の流れの中で生きられるのだと、理由もなく、思うのです。
 だから、25歳になたペーターは、その時、お城へ行こうと決意しました。家を飛び出し、町を駆けだします。しかし、次の瞬間には、彼は見知らぬ森の中で凍える、39歳になています。どうしてここにいるのかも、何をしようとしていたのかも思い出せません。それから、また、彼は時空を飛び越えます。サリーと目が会いました。さあ、お城へ行かなければ。でも彼は52歳のおじさんで、肺を病んでいます。家から出られないけれど、治たらすぐに、お城へ行かなければならないから、それを書き留めようとします。しかし、ノートに文字を書きつけた瞬間、彼は8歳の子どもになているのです。
 そうして、そうして、町中のひとが、国中のひとが、たたひとりの、お城に住むかわいそうな女王さまの悲しみに思いを馳せています。
 悲しみも、焦燥も、慰めも、誰かの勇気も、出口のない迷路の中で彷徨うように、ただただ膨れているのです。
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