時間ウサギには時間がない
時間ウサギには時間がありません。今日もいそがしくあちこちを走り回
っています。
「どうしてそんなに時間がいつもないんだい?」
友人の万年ガメが聞きました。
「ボクは明日にも死ぬかもしれない。そう思うといてもたってもいられないんだよ」
時間ウサギはそう答える時間も惜しむように走り回り、ついに切りかぶに転げてケガをしてしまいました。
「うーん、うーん。はやくしないと死んでしまう。まだまだやることがいっぱいあるのに」
万年ガメが時間ウサギのお見舞いに行くと、ベッドの上で時間ウサギがうなされています。万年ガメは時間ウサギにリンゴをむいてあげながら言いました。
「ケガは悲しいことだけど、ボクはキミとこうしてゆっくり過ごす時間ができてうれしいよ」
気持ちがさくさくしていた時間ウサギはこう言いました。
「それはキミが万年も生きられる時間を持っているからだろう」
そんな嫌味に万年ガメは悲しい顔で首をふりながら答えました。
「ボクに時間はいっぱいあるけれど、キミと過ごす時間だけは作れなかったんだよ」
そう言われた時間ウサギは、アッと思い返しました。今までの自分のやることのなかに、この友人と過ごす時間があったのだろうかと。
「……ごめん」
時間ウサギがしょんぼりと頭を下げると、万年ガメは小さく微笑みながら、むいたリンゴを差し出しました。時間ウサギはそのリンゴをゆっくりと、時間をかけてあじわいました。