第40回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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スリット
投稿時刻 : 2017.08.19 23:51
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スリット
浅黄幻影


 八月一日
 実家に帰てきた。久しぶりに会た母は僕が痩せたと心配していた。その気持ちが嬉しい。
 大学も試験は終わり、一月半の長い休みが始まる。九月の成績発表は怖いけれど、久しぶり旧友たちに会えるのは楽しみだ。

 八月二日
 友人と会う。彼は大学デビしたらしい。だが変なデビだ。どこかの俳優のような白いメを髪に入れていた。あまり似合ていないと言いたかたが、やめておいた。近所の居酒屋で飲み、各々、大学生活やこれまでずと一緒に暮らしてきた思い出などを語た。
 最後に飲み過ぎた彼を送ていた。

 八月三日
 帰郷中、畑の水やりをするように言われる。家の隣の藪を抜けて、じうろを持て回るのは大変だ。しかし化け物みたいに育つキウリも鈴なりのミニトマトも、そうしなければ手に入らない。
 畑は手入れをしなければならない。

 八月十日
 友人の父が急死した、と母に聞かされた。新聞を見ていれば気づいたはずだが葬儀は今日だた。慌てて喪服を父から借り、支度した。ひどく暑い日で、最悪にも喪服は冬服だた。
 彼の父は急ではあたけれど、心臓に病を抱えていたのは周りでも知ていた。わかていても、実際に死んでしまうとなれば話は別だろうが。同年代の自分の父親が死んだらと考えると……彼の一家が心配になる。
 お寺はエアコンなどもなく、とても堪えた。しかし母子のひどく沈鬱で疲れ果てた様子を見ると、我慢の念も起こる。もしかしたら、僕がいたことにも気づいていなかたかもしれない。

 八月十一日
 家族と隣町の中華料理屋へ行た。そこでスリトで仕切られたテーブルのいくつか先に、友人の顔を見つけた。だが驚いたことに、彼は満面の笑みで食事をしていた。
 麺をすすり、料理を皿に取て笑う彼を見て、怒りさえ覚えた。いたい彼は、自分の父親が死んだというのに平気でいられるのだろうか?
 憤慨した僕は、彼に一言、言てやろうと思た。
 それは言わずに終わたのだが……

 八月十八日
 どうにもすきりしない日が続く……。朝晩の畑の水やりだけが無心になれるひとときだ。

 八月二十四日
 昼過ぎに友人が来た。彼は葬式に来てくれてありがとう、と手を握て言た。僕は微妙な顔でがんばれとしか言えなかた。
 まさかスリトの先にいた人物が別人だたなんて……。彼を信じ抜けなかた自分が恥ずかしい。
 明日はまた大学に戻る。畑ともお別れだ。
 この夏に僕は大きな傷を残してしまた。
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