第43回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動6周年記念〉
 1  6  7 «〔 作品8 〕» 9  21 
届かないもの
投稿時刻 : 2018.02.17 23:30
字数 : 576
5
投票しない
届かないもの
ra-san(ラーさん)


 どうしたて、届かないものがある。
 放課後の教室で窓越しの夕日を浴びる彼女は、いつものように何気ない笑顔であたしの心に影を差す。
――くんが好きなんだ」
 会話の最中にさらりとされたその告白は、真剣でも深刻なものでもないようで、けれどそんな好意の相手が彼女の中にあることに、あたしはどうしようもないわだかまりを胸に秘める。
――んは、誰か好きな人いないの?」
 無邪気にそう言う彼女の手を掴んで、真剣で深刻な告白をしたい衝動に駆られながら、あたしは「今は別にいないよー」と、声が裏返らないように慎重に丁寧に何気ない笑顔をつくりながら、できる限りのさらさらな嘘を吐く。
「えー? 隠してなくない? なんかあたしだけ告白してて損じない」
 不満気にあたしをつつく、彼女の白く細い指。
「本当いないて。でも――くんは確かにカコイイよね」
 そこに指を絡ませて、彼女のしとりとした手の温もりに触れたい。
「あ、横取り厳禁!」
 ダメダメと手で×をつくてプルプルと首を振る彼女の髪が揺れる。
「取らないて。ほら、そろそろ帰ろう」
 その髪に手を触れて、彼女の小さな頭を抱きしめたい。
「取ダメだからねー
 校門での別れ際にもそう言て遠ざかていく彼女の背中が、夜の暗がりへと消えていく。
 あたしは夜の風を背中に受けて、彼女とは反対の道へと歩き出す。
 どうしたて、届かないものがある。
← 前の作品へ
次の作品へ →
5 投票しない