彼女の本音
「お前たち、まだ結婚しないのか?」
友達からそう言われたのは何度目だろう。
彼女と付き合い始めて五年。趣味は違うが価値観は似ているし、ケンカもするけど数日後には仲直りしているし、そこそこうまくや
ってきていると思う。
それなのに、結婚まで話が進まない。
「こんな家に住みたいね」とか、テレビとかを見ながら「あのウェディングドレス、素敵ね」という話はするけれど、具体的にどうするかという話は少しも出てこない。
(男の俺の方から話を進めるべきなのか?)
そう思って両親にあいさつに行きたいと言って約束しても、「ごめんなさい。急に予定が入っちゃって」とか「お母さんが風邪気味なの」といつも直前に都合が悪くなる。
ひょっとして他に好きな奴でもいるのかと疑ったが、そんな気配もない。
(単に結婚したくないだけなのだろうか?)
名字を変えたくないとか、親戚付き合いが面倒だとか、仕事の都合とか、子供が生まれた後の生活スタイルの変化とか、今の社会では結婚には様々な問題がつきまとう。それを嫌がり、同棲するだけで籍を入れないカップルがいるのは俺も知っていた。
彼女は仕事が好きでバリバリ働いているので、家で主婦をするタイプではない。きっと結婚後も仕事を続けたいだろう。俺も家事や育児をする気はあるけれど、実際にその時の仕事の状況でどこまでできるかはわからない。
その辺りを不安に思っているのだろうかと思えば、結婚式の話や将来住む家の話を彼女から振ってきたりする。
俺と結婚したいのか。それとも、結婚したくないのか。
彼女の本心がなかなか見えてこない。
俺はいったいどうすればいいのかと悩み始めた頃、「大切な話があるの」と彼女に呼び出された。
夜景がきれいなレストランで、彼女はこう切り出した。
「実は私ね、動物が好きなの。小さい頃から猫とか犬とか色々な動物を飼って、いっぱいお世話をしてきたの。それでね、最近どうしても買いたい動物がいて、お金を貯めて飼う準備をしていたんだ。最近ようやくお金が貯まったから、その動物を飼ってみたいんだけれど……いいかな?」
不安げな目をする彼女を前に、俺は正直ホッとしていた。最近の彼女は仕事を頑張っていたので、正直なところ俺と結婚せずに、仕事に生きるつもりなのかと思っていたところだった。
「最近仕事を頑張っていたのは、そのためだったのか。それで、いくら貯めたんだ?」
「三億円」
「は?」
俺は耳を疑った。サラリーマンの生涯賃金と言われている金額じゃないか。
「いったい何を飼うつもりなんだ?」
犬や猫じゃないだろう。珍しい品種でもそこまでいかない。もしかして、ペンギンとかシロクマとか一般家庭じゃ飼えない動物なのか?
彼女はニッコリと微笑んで言った。
「それはね、ア・ナ・タ」
こうして俺は彼女のヒモになった。