第44回 てきすとぽい杯
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床下収納
投稿時刻 : 2018.04.14 23:37
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床下収納
小伏史央


 洗面所に床下収納があることに気付いた。
 洗面所は同時に、浴室に隣接する脱衣所でもあた。深夜に帰宅した私はシワーをし、体中に感じるアルコールを洗い流そうとしていた。その日はつらいことがあて飲みすぎてしまた。酔い方も少し変な感じだた。
 それで、浴室から出た途端に、くらときた。脱ぎ捨てた衣服の上に倒れ、頬が床にひついた。そのときに、床から漏れ出る風を鼻先で感じ取たのだた。
 幸いなことにどこも打ていなかたし、意識もはきりしていた。服をどかすと目立たないが確かに、床に可動式の取手が嵌め込まれていて、それを引きだすと容易に開けることができた。
 開けると「うわ」と声が出た。
 でも、「うわ」と言うようなものは何も入ていなかた。そもそも床下収納の中は空ぽだた。
 何もないのに驚いてしまた。これはひどいなと苦笑して、そのまま部屋に戻て眠た。


 浅い眠りが覚めると早朝だた。ひどい気分だたので、野菜室からトマトを出してかじて、それで朝食とした。
 それからようやく洗面所で顔を洗た。トマトで口元も汚れていた。そのときになてようやく、昨晩の床下収納のことを思い出した。
 昨晩これを開けたあと、記憶は定かではないが、きちんと閉めたらしい。床下収納の蓋は閉まていた。ふちの辺りに手をかざしてみると、昨晩と同じように空気の漏れ出る感触がする。
 冷静になて考えてみると、空気の流れがあるのはおかしいような気がしてきた。
 昨晩と同じように取手を引きだして、上に引張る。
 しかし、それは開かなくなていた。
 なにかが引かかているようだた。かかとくらいまでの高さまでは開くが、それ以上はびくともしない。
 ひかかるといても、中には何も入ていなかたはずだ。ではどうして急に開かなくなたのだろう。
 小さく開いた隙間から、中を覗いてみても、薄暗くてよく分からない。
 不安になて、すぐにライトを持てきて中を照らした。
「うわ」と声が出た。
 でも、何かが見えたわけではなかた。ただ、何の理由もなく、反射的に「うわ」と言てしまた。言てしまたのに、何も見えなかた。ライトが照らすのは床下収納の狭い壁、他にはなにも窺えない。かかとの高さまでしか開けないから、角度的には、どうやても見えないところもある。でも見えている範囲では、何も見えなかたし、何かがあるような気配はなかた。
 でも、「うわ」、がどうしても気になた。
 自分のことなのに、自分の発言の意味が分からない。
 もしかしたら、角度的に見えないところに、何かがいるのかもしれない。なんとか体勢や見る向きを変えたりするが、見えない部分はどうしても見えない。それなのに、どうにかすれば見える気がして、それ以外のことが考えられなかた。


 それからもう何年も、そのことばかり考えて生きている。
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