てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
第44回 てきすとぽい杯
〔
1
〕
…
〔
6
〕
〔
7
〕
«
〔 作品8 〕
»
〔
9
〕
〔
10
〕
…
〔
15
〕
床下収納
(
小伏史央
)
投稿時刻 : 2018.04.14 23:37
字数 : 1174
1
2
3
4
5
投票しない
感想:1
ログインして投票
床下収納
小伏史央
洗面所に床下収納があることに気付いた。
洗面所は同時に、浴室に隣接する脱衣所でもあ
っ
た。深夜に帰宅した私はシ
ャ
ワー
をし、体中に感じるアルコー
ルを洗い流そうとしていた。その日はつらいことがあ
っ
て飲みすぎてしま
っ
た。酔い方も少し変な感じだ
っ
た。
それで、浴室から出た途端に、くら
っ
ときた。脱ぎ捨てた衣服の上に倒れ、頬が床にひ
っ
ついた。そのときに、床から漏れ出る風を鼻先で感じ取
っ
たのだ
っ
た。
幸いなことにどこも打
っ
ていなか
っ
たし、意識もは
っ
きりしていた。服をどかすと目立たないが確かに、床に可動式の取
っ
手が嵌め込まれていて、それを引きだすと容易に開けることができた。
開けると「うわ
っ
」と声が出た。
でも、「うわ
っ
」と言うようなものは何も入
っ
ていなか
っ
た。そもそも床下収納の中は空
っ
ぽだ
っ
た。
何もないのに驚いてしま
っ
た。これはひどいなと苦笑して、そのまま部屋に戻
っ
て眠
っ
た。
浅い眠りが覚めると早朝だ
っ
た。ひどい気分だ
っ
たので、野菜室からトマトを出してかじ
っ
て、それで朝食とした。
それからようやく洗面所で顔を洗
っ
た。トマトで口元も汚れていた。そのときにな
っ
てようやく、昨晩の床下収納のことを思い出した。
昨晩これを開けたあと、記憶は定かではないが、きちんと閉めたらしい。床下収納の蓋は閉ま
っ
ていた。ふちの辺りに手をかざしてみると、昨晩と同じように空気の漏れ出る感触がする。
冷静にな
っ
て考えてみると、空気の流れがあるのはおかしいような気がしてきた。
昨晩と同じように取
っ
手を引きだして、上に引
っ
張る。
しかし、それは開かなくな
っ
ていた。
なにかが引
っ
かか
っ
ているようだ
っ
た。かかとくらいまでの高さまでは開くが、それ以上はびくともしない。
ひ
っ
かかるとい
っ
ても、中には何も入
っ
ていなか
っ
たはずだ。ではどうして急に開かなくな
っ
たのだろう。
小さく開いた隙間から、中を覗いてみても、薄暗くてよく分からない。
不安にな
っ
て、すぐにライトを持
っ
てきて中を照らした。
「うわ
っ
」と声が出た。
でも、何かが見えたわけではなか
っ
た。ただ、何の理由もなく、反射的に「うわ
っ
」と言
っ
てしま
っ
た。言
っ
てしま
っ
たのに、何も見えなか
っ
た。ライトが照らすのは床下収納の狭い壁、他にはなにも窺えない。かかとの高さまでしか開けないから、角度的には、どうや
っ
ても見えないところもある。でも見えている範囲では、何も見えなか
っ
たし、何かがあるような気配はなか
っ
た。
でも、「うわ
っ
」、がどうしても気にな
っ
た。
自分のことなのに、自分の発言の意味が分からない。
もしかしたら、角度的に見えないところに、何かがいるのかもしれない。なんとか体勢や見る向きを変えたりするが、見えない部分はどうしても見えない。それなのに、どうにかすれば見える気がして、それ以外のことが考えられなか
っ
た。
それからもう何年も、そのことばかり考えて生きている。
←
前の作品へ
次の作品へ
→
1
2
3
4
5
投票しない
感想:1
ログインして投票