第47回 てきすとぽい杯
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未熟者
投稿時刻 : 2018.10.20 23:22
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未熟者
浅黄幻影


 この世に存在するすべてのものは、未熟である。
 根こを生やして動かぬものは、周囲を見ることさえしないつまらないものである。隣の芝生を見ることさえ、動かないでは叶わない。だから彼は自ら世界を知ろうとしない、知識を欲しないものだ。
 彼は根を引き抜き、歩き始めるべきである。数歩進んだだけで、彼の世界は変わるであろう。

 翼を生やして飛翔するものは、その早さがために日々の過ぎ去ることに気付かなくなる。今生きている私たちが今のこの生活を早いとは思わないように。人はいつも、今の自分が正しい姿だと感じてしまう。これでいいし、これで満足だと思てしまう。
 どんなに翼で飛んでいても、見捨てたものが多くては仕方がない。どんなに慎重に歩んでも、辿りつかなくては残念だ。自分の結末を見届けるのは、結局自分なのだから。私たちはいつでも自分を見つめ直さなければならない。

 脈打つ腕に力を任せるものは、もちろんやさしさを知らないものだ。彼が力に任せる限り、あらゆるものは壊れ、崩れ、瓦礫となる。どれほどどくどくと脈を打ち、汗ばみ、隆起した腕を振り回しても、ことがなせねばすべては台無しである。もし彼がいつまでも力に任せていれば、いつか報いは彼に返るだろう。
 もししあわせに終わるのならば、いつの日にか彼に大切な人ができたときだろうか。

 角を持つものは、その他者を威嚇するものを持つために、常に自分も他者に威嚇されていることに気付かなければならない。
 どうして他人を信頼できないものが信頼されることが出来よう? 彼は世界を信頼しなければならない。
 もし世界に自分とさらにもう一人、自分がいるとすれば、彼は永遠の不信から脱却できないだろう。

   ***

 私たちは銀の糸を吐き、繭を作らなければならない。仮初めの根こを降ろし、脈を抑えて、小さな角やヒゲをしまわなければならない。
 けれど、まだ世界には卵から足が出たようなものや、ウロコのついた人魚、土塊で出来た人形、邪に変わり果てたものまでさまざま残ている。
 世界にあるものはすべて何かしら未熟である。
 私たちは繭にならなければならない。
 そしてきれいな蝶になり、羽ばたくのだ。

 思想完全大百科収録(ただし未完)
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