てきすとぽい
X
(Twitter)
で
ログイン
X
で
シェア
第49回 てきすとぽい杯〈てきすとぽい始動7周年記念〉
〔
1
〕
…
〔
7
〕
〔
8
〕
«
〔 作品9 〕
»
〔
10
〕
〔
11
〕
…
〔
13
〕
大きな教会の死体泥棒
(
小伏史央
)
投稿時刻 : 2019.02.16 23:44
字数 : 1281
1
2
3
4
5
投票しない
感想:4
ログインして投票
大きな教会の死体泥棒
小伏史央
大きな教会のほかには、さほど目立
っ
た物のない北方の村。伝書梟に導かれ、便利屋〈沙漠庵〉のふたりはこの村を訪れていた。
梟は教会の窓へと入
っ
ていく。背の低い家屋が立ち並ぶなかで、村の中心を陣取る教会は頭を抜いて高く、天辺の鐘を見上げようとすると首が痛くなるほどだ
っ
た。
サナが今一度、梟から受け取
っ
た便箋を読み返している。
「ここで間違いないみたい」
「
っ
たく。遠くから依頼してきやが
っ
て」
バクは教会の戸を叩いた。
しばらくして戸が開き、中から辛気臭い顔をした男性が顔を出す。肩には先ほどの梟が乗
っ
か
っ
ていた。どうやらここの教職者のようだ。
「沙漠庵
っ
す」
「ようやく来てくださいましたか。こちらへどうぞ」
教会の中は広か
っ
た。入
っ
てすぐは礼拝堂で、その奥に講壇が構えている。講壇のうしろには垂れ幕が下が
っ
ているが、その裏にも扉があるようで、教職者はその先へと入
っ
てい
っ
た。ふたりも彼に続く。
その部屋は薄暗く、寒か
っ
た。気持ちばかりの燈火が点いているだけで、足元もろくに見えやしない。
「それでどんなご依頼で?」
足元を伝う冷気を払いながら、バクは教職者に尋ねた。
「こちらを」
部屋を少し歩いたところで、彼は足元を手の平で示した。暗くてよくわからない。途端に部屋全体の天井や壁が発光し、部屋が明るくな
っ
た。梟が驚いて飛び上がる。
サナが明るくしたのかと思
っ
たが、バクが見遣ると首を振る。
部屋全体を、棺が埋め尽くしていた。
「ここは
……
霊安室か?」
「似たようなものです。最近、村でひどい火災が起きまして、死体の魂を鎮めているところでした」
「でも、どれも空
っ
ぽみたいだけど」
「ええ、死体が盗まれてしま
っ
たのです」
ふたりは顔を見合わせる。部屋を占める棺は、十ほどはあるだろう。そのすべてが盗まれたというなら、一大事だ。
「沙漠庵は特殊な魔法で事件を解決してくださるとか。おふたりにはどうか死体泥棒を見つけ出して、死体を取り返してほしいのです」
ふたりはひとまず、現場に痕跡が残
っ
ていないか探して回ることにした。犯人の残した物があれば、サナの魔法で本人のいるところまで辿れる。
心当たりがないか聞いても、教職者は首を振るだけだ
っ
た。
「ねえ、あれどう思う?」
棺をひとつひとつ確認しながら、サナが小声で耳打ちする。バクはサナの視線に沿
っ
て、部屋を照らす壁の光を眺めた。
「き
っ
と依頼主の魔法だろう。魔法を扱える教職者は、少なくねえからな」
「でも彼からは魔力を感じない」
バクは眉をしかめる。魔法が使われていないというなら、そういう構造の光源だ
っ
たというだけだろうか。
「あれ、依頼主は?」
気付けば部屋にいたはずの教職者は消えていた。扉も閉ざされている。
棺がガタガタと揺れだした。フ
ッ
と光が消え、部屋が闇に包まれる。
サナが指先に光を灯した。しかし、光が足元の暗闇へと吸い込まれていく。
「どうやら騙されたみてえだぞ」
掠れた光を遮
っ
て、棺がサナに飛びかか
っ
てくる。バクがそれを受け止め、振りほどいた。
「どうりででかい教会だと思
っ
た」
扉はびくともしない。
魔力泥棒に力を吸われていく中で、ふたりは脱出の方法に考えを巡らせる。
←
前の作品へ
次の作品へ
→
1
2
3
4
5
投票しない
感想:4
ログインして投票