遊び場
〔 1 〕…〔 6 〕〔 7 〕«〔 作品8 〕»〔 9 〕…〔 17 〕
ラミア
投稿時刻 : 2019.05.19 13:22
字数 : 735
1 2 3 4 5
投票しない
ラミア
住谷 ねこ


電車に乗っていると、おとなしく本を読んでいたラミアが
「おばあちゃん、今までで一番悲しかったことはなあに?」と聞く。
真っ黒な瞳、真っ黒な髪、そして真っ黒な肌。
ラミアの母親はアフリカのなんとかっていう部族の娘だ。

息子はなんだってそんな遠い国の、ほとんど裸族といっていいほどの
文明もなにもありそうもない小さな村の娘とそんな関係になったのか

なってしまったものは仕方ないとはいえ息子は放浪の旅をしたあげくそうなって、
そのままそのアフリカの何とか部族で、ほぼ裸で暮らすつもりだったらしいが、
ラミアの母親がラミアを生んですぐ亡くなってしまい、面倒なことにその部族では純粋な部族民しか受け付けず、ラミアの母がいなくなった以上、よその国の男と半分しか部族の血の入っていない娘は村においておけないとかなんとかで追い出され、しかたなくまだ生まれてまもないラミアを連れて帰国を余儀なくされ、いくところもないまま家に戻ってきたのだった。
 
 「そうねえ。一番悲しかったことねぇ」口だけで返事をしながらラミアの読んでいた本を見る。ダチョウがライオンやヒョウと戦い、最後は木になってしまうんだったかしら。

「今度の誕生会、うちでやるんでしょ?パパも帰ってきてくれるかな」
絵本から目を離さずにラミアが言う。
「パパはどうかしらねぇ。お仕事が忙しいから……」

パパは、息子は帰ってこない。どこにいるのかわからない。それより、生きているかどうかもわからない。息子はラミアを置いてすぐ、またアフリカに向かったのだ。
以来、4年間なんの音沙汰もない。

一番悲しいのはなんだろう。

「ラミアが泣いているときかな」そう言うと、ラミアは目を大きく見開いて
その目はどこまでも黒く深く、遠く。

そして絵本に目を落として「ごめんね」 と言った。
← 前の作品へ
次の作品へ →
1 2 3 4 5 投票しない