第52回 てきすとぽい杯〈夏の24時間耐久〉
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もし明智光秀がカップ焼きそばを作ったら
投稿時刻 : 2019.08.18 13:19 最終更新 : 2019.08.18 13:28
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- 2019/08/18 13:28:09
- 2019/08/18 13:25:23
- 2019/08/18 13:19:51
もし明智光秀がカップ焼きそばを作ったら
合高なな央


 家臣が献上してきた『カプ焼きそば』なるものを食してみようと思う。

 ところで『カプ焼きそば』は決して焼いていない、むしろ茹でているだけでござる。よしんば店頭までの製造工程を考えても、揚げているとは言えようが、焼いたり炒めたりはしていないのではござらぬか? しかし、そのような今までの秩序を壊すような革新的な考え方を拙者は好まぬ。世の中で重要なのは伝統と格式でござる。
 だから拙者は高らかに叫ぶ。『カプ焼きそば』は『焼きそば』で良いのでござる。

 そんな思索をしつつカプの蓋を開け、かやくをばらまき、そこへ熱湯を注いだ。
 ちなみに拙者は鉄砲の名手であり、かやくの使い方は一級品でござる。
『長篠の戦い』に於いては『殺し間』と呼称した必殺戦法を用いて敵を壊滅させたのが懐かしい。

 ところで、お湯で浮いてこないように麺ブロクの下にかやくをしまいこむ輩がいるらしい。が、言語道断でござる。さらに、麺の上にまんべんなくばらまくのもいかがなものか?
 なぜなら、湯切りをしたあとカプに隣接していたかやくはカプに貼りついてしまい、うまく麺と絡められず、結局食事の後半まで残てソースを吸い込んだ辛いかやくとして疎まれる結果となるからでござる。

 正解は、麺の上部の真ん中ら辺に平らにばらまくのがよろしい。

 おと、賢しらに講釈を垂れてしまた。つい将軍に使えていた身としての教養をこぼれさせてしまうのが拙者の欠点でござる。


 そして待つこと五分。「いやお前は三日天下だただろ」だと? ぐぬぬ。許せん。武士に対して不届きな言動。刀を抜け! いざ尋常に勝負! え? そうこうしているうちに五分たただと? ええい仕方がない。今回ばかりは鞘に収めよう。が、人前で拙者を愚弄したこの恨み決して忘れはせぬぞ。

 と言いつつカプを傾け湯切りをする。
 捨てられたお湯から立ち上がる湯気。そこから漂う麺の茹で上がた芳しい匂いに陶酔し、つい一句詠んでしまう。

『時は今 お湯がしたたる シンクかな』

 え、何か違うて? 無論拙者に天下を奪う野心などないでござるからな。

 あ、大変だ。シンクのボンという音にすわ敵襲かと驚き慌て、蓋がはずれて全ての麺が流しに落ちてしまたではないか。
 何という絶望感。それもこれも信長の嫌がらせか。
 我を金柑頭と嘲り、公衆の面前で人の頭をぽかりぽかりと叩きおたあの男の……

 くそ、これでもう迷うことはない。

「者ども出陣じ。敵は本能寺にあり!」
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