第53回 てきすとぽい杯
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知人と出かけた話
投稿時刻 : 2019.10.19 23:41
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知人と出かけた話
合高なな央


 最寄り駅前にメイド喫茶ならぬ、冥土喫茶がオープンした。
 女の子がお化けの格好をして給仕してくれるという例のアレだ。
 月末のハロウンにはさぞ盛況だろう。

 インスタ映えするというので若い女の子からも人気で長蛇の列だ。
 僕も知人に誘われて(僕には友だちはいない)その店に出向くことにした。
 行列に並び、待てる時間も楽しかた。若い女の子のムンムンとした熱気をひさびさに体感した。もちろんこんなことをいうとオヤジだのなんだのと罵られるだろうことは薄々わかているのだが、実際いいおさんなので気にしない。

 知人もつぶやく。
「オラわくわくすぞ」

 そして楽しい待ち時間はあという間に流れ、メイド喫茶に入店する。
 貞子風メイクの女の子がいらいませとモニター風の出入り口から這いでてきてあいさつする。こちらこそお疲れ様といいたい。

 席について店内を見渡す。狼男ならぬ狼女、サキバス、塗り壁、キンシーと和洋折衷様々な化け物たちが給仕している。たまたま僕たちの席の横を、ハリウド張りの特殊メイクをしたエイリアンだかプレデターだかわからない女の子が通りがかたので、どういう技法を使てるのか訪ねたら「失礼ね。私は客よ!ノーメイクです」とプンプン怒ていてしまた。メイド喫茶には人ならぬものを引き寄せる力があるらしい。

 やがてメニが決まり僕らは注文のベルを鳴らした。カボチ頭のお化けがやてきて「トリク・オア・トリート?」と尋ねてくる。知人が私はヤン坊、僕がマー坊といたが伝わらなかた。涼し気な秋風が卓上を通り抜けていく中、知人は悪魔のオムライスを僕は死神カレーを注文した。

 やてきた料理はいたて普通だた。いや、オムライスはまだいい血に見立てたケチプで「呪てる♡」と書かれている。ところが僕のカレーはなんの変哲もないカレーだ。変哲がないどころか、もというとお店のカレーではなくお家で作るカレーの香りが漂てくる。手を付けるとやはり、バーモントカレーとジワカレーを1対1でブレンドさせた、おふくろの味カレーだ。しかし僕はさじを投げるどころかそのカレーに黄レンジのごとくむしぶりついた。実は僕はおふくろの味カレーが大好物なのだ。

 そして脇に添えられた福神漬け。真赤な染料が体に悪そうと勘違いしてる人もいるが、あれは食紅で体に害は何一つないのだ。カレールーとご飯のハーモニーにより複雑なテンポを添えるその味わいを期待して、僕はスプーンで福神漬けを掬て口に運ぶ。

 ぐふ……、なんじこり! ゲロ不味い。マジで不味い。本当にヤバい方のまずさだ。
 僕はスプーンを置き、コプ一杯の水をゴクリゴクリと飲み干してテーブルにドンと音を立てておくと、怒り心頭でメイドさん、いや冥土さんを呼んだ。

 さきのパンプキンヘドがやてきて「トリク・オア・トリート?」と伺てくる。
 僕は福神漬けについて文句を言た。それまでのカレーが完璧な美味しさだけに、僕はあまりの福神漬けの不味さに辟易したのだ。
 すると涼しい顔で、といてもかぼちを被ているので顔はよくわからないのだが、パンプキンヘドは言た。
「ご主人さま♡ それは福神漬けではなく死神漬けでございます。薄く切た大根を豚の血に浸して漬物にしたものでございますよ。うふふ」と笑て去てしまた。

 そして僕らは店をでた。
 僕はレジで料金を支払うとき、レジ脇に置いてあた激マズな死神漬けの瓶を手に取り一つ買うことにした。
 冥土の土産に。
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