気になるあの娘のぷりんとしたお尻
武道館の前のバス停に車体を震わせてバスが到着し、僕は疲れた体で車両に乗り込む。
我が校の剣道部は今日、市内の高校の合同稽古に出向いていたのだ
った。
「やあ」
「おう」
バスの中、横向きのベンチシートに腰掛けた彼女がいた。気になる幼馴染みの夏菜子と偶然に居合わせたのである。
「となりあいてるよ」
「お、おう」
はにかみながらも、ありがたく隣に座らせてもらう。
他にもあいた席があったが、すぐに武道館帰りの高校生たちで埋まりバスは出発した。
「部活だったの?」
乗客たちの人いきれや話し声の雑音のなかで彼女は身を寄せるように聞いてくる。
「そう」
「剣道部だっけ、いいよね。なんか武士道っていうか誠実そうじゃん」
「なんで? 夏は防具が暑いし冬は板の間が寒いし、いいことなんかなにもないよ」
「そうね。たしかに少し汗臭い」
「……ご、ごめん」
「うふふ、いいよ嫌じゃないし。実は私匂いフェチなんだ」
僕は夏菜子の笑顔にキュンとなったが表には出さないでいた。
「夏菜子は? なんでこんな時間まで? 部活はいってたっけ?」
「ううん。ちょっと友達がね、修学旅行のしおり作るの手伝ってたんだ」
「へえ、感心だねえ」
「なにそれ、大人ぶって。」
次の停留所にバスが停まり、乗客が乗り込んでくる。
夏菜子は「あ、どうぞ」とそこに乗り込んできたおばあちゃんに席を譲る。
「俺が立つよ」
「いいよ、部活で疲れてんでしょ」
「だからって女を立たせるわけには」
「いいからいいから。それに座ってるといいことあるかもよ」
「いいこと」
「このカーブを曲がった先にね…… やっぱり内緒」
と夏菜子は含み笑いをする。
やがてカーブを曲がるとそこには、
「ほら」
高台の下り道から都市風景をバックに沈んでいく雄大な夕暮れの風景が開けた。
「きれいだね」窓の外を前かがみに覗き込むように彼女が行った。
座席からは座ったままで夕陽が見える。でも正直なところ僕は目の前に揺れる彼女のスカートのふっくらしたお尻に目が言ってしまう。
とふと振り向いた彼女がいたずらっぽい目で、言った。
「何見てるのかな?」
「え、べ、べつに。夕陽に見とれてたんだけど」
「ふーん」と言った彼女は。
つり革から手を放し僕に顔を近づけ耳元で囁いた。
「ねえ、私のぷりんとしたお尻見たいんでしょ?」
な、なんだってーと内心驚いたが、悟られてはいけない。
「べ、べつに」
「正直になったら見せてあげてもいいんだけどな」
僕は彼女の魅力に抵抗できず素直につぶやく。
「み、見みたいです」
「オッケー」と彼女はローラのように叫ぶと学生カバンからB5くらいの紙を取り出し渡してくる。
なにこれ?――紙には真ん中に大きな文字で『おしり』と印刷されていた。
「なんですかこれ?」と敬語で質問する。
「これはねえ、プリントした『お・し・り』よ」
そう言うと、彼女は木琴のような音色で屈託なく笑った。